水野 :本日はお時間をいただきありがとうございます。秘書のみなさんの普段の仕事内容については、まだまだ知らないことがたくさんあると思っておりまして、今回は手土産と会食にスポットライトを当ててお話をお聞きしたいと思います。
秘書として気をつけたい「手土産」のポイント
▶︎ 抑えておくべき基本のポイントとケーススタディ
水野 :さっそくですが、秘書の方々が手土産を選ぶ際に大事にすべきポイントはどういったところでしょうか?
渡邉 :基本的には5つのポイントがあると考えています。「価格」「味」「ストーリー性」「実用性」「外装・梱包」の5つです。これらをベースにして、お相手の方のキャラクターや家族構成、お渡しするときのシチュエーションなどを考慮しながら、少しずつ応用していくことが良いのではないかと思っています。

水野 :「取引先の社長にお渡しする手土産を選んでおいて欲しい」とボスから依頼を受けた際には、どのように対応しているのでしょうか?
渡邉 :お相手の方が、ある程度ご年配の男性だった場合は大きく2パターンです。いずれもお相手の方がどのようなキャラクターなのかによるので、まずはボスに確認します。
その上で、ひとつ目のパターンは特定の手土産を買い置きしておくことです。傾向として特に男性の場合、「これ」と決めたら同じ物を使い続けるタイプの方がいらっしゃいます。その際は、これまで通りの「いつもの手土産」にします。
ふたつ目のパターンはお相手の方の好みが固定されていない「お任せ」のケースです。こちらの場合は、お相手の方に喜んでいただくことが何よりも大切ですから、事前に確認した内容などを踏まえて、自分なりに考えた物をボスに提案するようにしています。
その際、ボスから「自分のイメージに合わないな」と言われることもあります。こちらとしては、お相手の方に喜んでいただくことを第一優先に考えているので、その詳細もお伝えします。その上で、ボスのイメージに寄せていくこともありますし、こちらの提案を受け入れていただくこともあります。割合としては後者が多いでしょうか。「任せるよ」と言った以上こちらの考えを尊重してくださることが多いです。
あとは別のケースで、お相手がお若い方の場合や女性の場合です。この場合はボスのイメージに合わせてしまうとミスマッチが生じてしまうので、ほとんど「お任せ」になります。その際は、ご本人ではなくその向こうにいらっしゃるご家族の方に喜んでいただけるものを選ぶなど、いろいろと工夫をしながら手土産を決めていきます。
▶︎ 手土産選びのエピソード
水野 :これまで秘書として仕事をしてきた中で、ボスのために手土産を用意する機会がたくさんあったと思います。初回訪問だったり、外国から要人がいらっしゃるタイミングだったり、ときには謝罪だったり。いろんなシチュエーションがございますが、何か具体的なエピソードを教えてください。
渡邉 :私自身の経験と、あとは運営している秘書ネットワークで知った事例を合わせてお伝えしますね。
たとえば初回訪問だと、「これからビジネスのお付き合いを始めるにあたって、お互いのことを深く知る時間にしましょう」ということが目的になると思います。その場合、自分の会社のものをお持ちするケースが多いです。
たとえばカシオ計算機さんの場合は、G-SHOCKをお持ちしたり。JALさんであれば、飛行機の模型やファーストクラスのお客様にお出しするアメニティをお持ちしたりするようです。やはり初回訪問だと、自分のことを知っていただくことや印象に残すことがポイントになりますから、自社をアピールできるものをお持ちすることが多いですね。
初回訪問以外だと、手土産を用意するのは圧倒的に会食が多いです。会食の際は、何ヶ月先まで買えない人気商品だったり、他の方から紹介を受けないと買えないようなレアな商品を用意することがあります。こういった場合は、商品そのものにパワーがあるので誰でも喜んでいただけますね。

逆に気をつけたいポイントとしては、情報収集を中途半端にしないということです。どういうことかと言うと、たとえば今度会食するお相手の方のことを事前に調べた時に、コーヒーや紅茶が好きであることがわかったとします。
ここで軽はずみに飛びついてしまうと後悔することがあります。というのも、コーヒーや紅茶が好きな方って、こだわりが強い場合があるからです。コーヒーだと豆の産地にこだわる方もいますし、深煎りが好きだとか酸味が強いほうが良いなど、いろんなこだわりポイントがあります。紅茶だって「アールグレイは好きだけど、ダージリンはちょっと」という方がいたりします。なので、お相手の方の好みを深いところまで詳細に把握できている場合は良いのですが、入口の情報だけで飛びついてしまうと、結果的に好まれない物をお渡ししてしまうことがあります。
過去にあった例としては、サラダが好きな方がいらっしゃったので手土産はドレッシングがいいんじゃないかと考えたことがありました。ただ、「ドレッシングにもいろいろあるな」と踏みとどまったんです。
和風が好きなのか?洋風が好きなのか?オイリーなものが良いのか?さっぱりしたものが良いのか?中にはオリーブオイルに塩だけというシンプルなものが好きという方もいらっしゃいます。細かく好みが分かれるため、安直に決めるのは危険だなと思いました。
そのため、ポイントになるのは、情報を深掘りしていき、細かな好みの部分を把握することだと思います。そのためには、想像力を発揮することが何よりも大切なのだと思います。
仮に「日本酒が好き」という情報があったときに、想像力を発揮すれば「辛口もあるし、フルーティーなものもある。味で言えばどれがお好みだろう?」「蔵元にこだわる方もいらっしゃるし、お米の産地で選ぶ方もいるな」と深掘りしていくことができます。そうすることで、何を把握すればいいかが少しずつ見えてくると思います。逆に、日本酒そのものではなく、日本酒に合うおつまみで検討してみたり、酒器に軸足を移したり、広がりが出てくることもあります。お相手の方に喜んでいただくために、いろんなアプローチがあると思いますから、想像力を活かして自分なりの提案をするのが良いのではないでしょうか。
▶︎ 審美眼を磨くためのコツ
水野 :喜んでいただける手土産を選ぶには、想像力に加えて審美眼を磨く必要があると思います。これまで多くの秘書の方とやり取りされてきたと思いますが、具体的なアドバイスとしてはどのようなものがあったのでしょうか?
渡邉 :たとえば「五感を活かしたマーケティングをしましょう」というアドバイスです。待ち合わせ場所に早く到着したときや予定よりも早く仕事が終わったときは、デパ地下やコンビニをまわりましょうと伝えています。
いわゆるウインドウショッピングなのですが、デパ地下を一周すればスイーツの流行りを押さえることができます。試食ができるのであれば、自分で味わってみることも大切です。匂いを嗅いでおくこともポイントですね。
百貨店にはメンズ館もあるので、男性向けの小物を見て回ったりもできます。実際に手に取ってみて、触り心地や重さ、大きさを実感しておくことで、手土産を検討する際に活きるかもしれません。
足を使って見てまわり、味覚や嗅覚、触覚もフル活用して集めた情報はきっと役に立つはずです。実際に自分で経験した内容と世間の評価を照合することで、審美眼が磨かれていくと思います。
SNSやネットの情報も活用しますが、あくまで参考情報として捉えています。効率的に情報収集できますし、早く情報をキャッチアップできるのは大きなメリットだと思いますが、SNSやネットの情報を鵜呑みにするのではなく、自分で経験してみることが大事です。そうすることで、「こういう部分がお勧めできると思います」と自信を持ってボスに提案できるはずです。

秘書として気をつけたい「会食」のポイント
▶︎ 招待状とお礼状に想いを込める
水野 :次は会食について教えてください。お店の選び方や当日の動きなど、いろんなポイントがあるかと思いますが、段取りについてポイントはございますか?
渡邉 :力を入れるのは、招待状とお礼状です。時代遅れかもしれませんが、手書きのものをお送りするようにしています。メールやチャットツールも便利ですけど、敢えて手書きでお送りすることで印象に残ったら良いなと思い続けています。
こだわりのポイントはいくつかあります。たとえば当日のお店が和風であれば招待状は縦書き、洋風であれば横書きにしています。加えて、お店の情報を少し付け足したり、手書きの地図を入れることもあります。
定型文の招待状をメールでお送りして、そこにお店のURLを貼り付けるというやり方もありますが、それだと特別な感じがしないと思います。私はゲストの方にワクワクして当日を迎えていただきたいので、ちょっとスペシャルな印象を持っていただくためにも手書きの招待状にこだわっています。
カジュアルすぎるのは良くないですし、フォーマルすぎても堅苦しいので、招待状のトーンにはいつも頭を悩ませます。時間はかかりますが、「はじめまして」の会食であればなおさら、印象が残るのでやったほうがいいと思っています。
お礼状も手書きのものをお送りしますが、会食で出た会話や召し上がったお料理を盛り込むようにしています。そのためにも、お礼状をつくる前にはボスへのヒアリングを欠かしません。そうすることで、次回お会いした時の話のきっかけになるかもしれませんし、こちらのことをより印象づけることができると思っています。
ちなみに、ボスへのヒアリングはとても重要です。私はボスが会食した方をすべてリストにし、いつ、どのお店で、どんな料理とお酒を召し上がったのか、どんな手土産をお渡ししたかをデータにしています。そこに印象的だった会話もメモするようにしているのですが、たとえば「左利き」という情報も備考欄に書いておきます。
ナイフとフォークのときはいいのですが、お箸を使うときは左利きの方って気を遣われると思うんです。なので次回以降の席次の参考になるように、そういった情報もできるだけ細かくヒアリングして残すようにしています。
▶︎ 会食で使うお店選びのコツ
水野 :お店を決めるときは、どのようなことに注意していらっしゃいますか?
渡邉 :都内であれば、できるだけ下見をするようにしています。お店の立地という観点では、お車でいらっしゃるのか、公共交通機関を使われるのかを必ず確認した上で、アクセスしやすいところを選ぶようにしています。
ゲストの方がご年配の場合は、お店の中の導線は段差が少ない方がいいです。また、お食事と会話が楽しめるだけのスペースがあるかという観点で、お部屋の広さも気になるところです。そのため、できるだけ実際に行ってみて、自分の目で確かめることを大切にしています。
一方で、たとえば地方のように、土地勘のない場所で会食で使うお店を探さなければいけない場合は、これまでに会食でご一緒した企業の秘書の方に相談したりします。大手企業だとわかりやすいのですが、地方に支社をお持ちの場合があるからです。秘書の方が本社勤務だとしても、地方支社の方におつなぎいただいて情報収集することもあります。その地方支社で良く使っているお店があれば、ネットで調べるよりもリアルな情報をいただけるので。
水野 :ネットのクチコミは参考にするのでしょうか?
渡邉 :参考にはしますが、仮にスコアが高いからといって、そのまま信用することはありません。良いお店でもスコアが低いところがありますし、その逆もあるからです。どこかの誰かの評価をそのまま信用するのではなく、できるだけ自分の体験をベースにします。それが難しい場合は、お知り合いの意見を参考にするという感じです。
▶︎ 良い会食にするために工夫していること
水野 :ご自身の事例はもちろん、他の方の事例でも構わないのですが、良い会食にするために工夫していることについて教えてください。
渡邉 :やはりゲストの方に喜んでいただくためには何があればいいかな?と考えることが大事ですよね。たとえば、ありきたりですが、海外の方がゲストの場合は、その方のご出身の国旗をお部屋に飾ったりします。お店に協力していただいて、お子様ランチのようですが、デザートに小さな国旗を立ててもらうこともあります。
あとは、手土産をうまく活用できないか考えます。たとえば、ゴルフが好きなゲストに贈る手土産として、ネームやロゴ入りのゴルフボールを用意したとするじゃないですか。食べ物などの手土産であれば、お帰りの際にお渡しすることが多いのですが、ゴルフボールであれば最後のお料理と締めのデザートの間にお渡しするようにします。
そうすることで、「いま開けてもいいですか?」という流れになりますし、ネームやロゴを見て喜んでいただけます。その後のデザートの時間も、ゴルフの話で盛り上がりますから、演出として手土産を使うこともありますね。

水野 :ちなみに、ご自身が出席した中で、特に印象に残っている「良い会食」はどのようなものでしょうか?
渡邉 :飲料メーカーの社長とその秘書の方、そして私のボスと私の4人で会食をしたことがありました。その際、社長が自社のウイスキーでハイボールをつくってくださいました。営業から営業担当役員、そして社長へと昇進された方で、「このつくり方が一番おいしいんですよ」と楽しそうにつくっていただいて、すごく印象的でした。
会食では仕事の話をすることが多く、「何を食べたか、何を飲んだか」を覚えている方は少ないのではないでしょうか。そんな中で、飲み物が印象に残っていることはレアケースだと思います。ハイボールの例は、ご自身の飲料メーカーというバックボーンを活かした、上手なやり方だと思うのですが、その方なりの「鉄板」というか、「印象に残すためにはこれ」というものがあると良いですよね。
▶︎ 会食時のトラブルについて
水野 :楽しい会食ばかりではなく、ときにはトラブルもあるかと思います。すべてを回避するのは難しいかもしれませんが、「こんなことがあった」という事例を教えてください。
渡邉 :その観点で言うと、ドタキャンですね。たとえばゲストの方が主要都市を巡っていて、東京にいらっしゃるタイミングで会食をセッティングしたことがありました。ただ、「会食が続いているから、今日はコンビニのおにぎりで済ませたい」であったり、「最近コースの料理ばかりなので、たまにはラーメンが食べたい」だったりで、お店の予約をキャンセルしたことがあります。
こればかりはしょうがないので、キャンセルになった際はお店には素直に謝罪しました。中には、「その理由であれば避けようがないと思いますので、キャンセル料金のお支払いは結構です。今後ともご贔屓にお願いいたします」という対応をしてくださったお店もありました。そういうお店とのお付き合いは本当に大切にすべきだと思いますし、また会食の話が出てきたら最初に「あのお店!」と頭に浮かぶようになりますね。
あとは、秘書から十分な情報をお店にお伝えできていないときに、やはりトラブルが起きやすいです。お店の方から聞いた話ですけど、お料理を出したとたんに「これは食べられません」と言われて、そのまま下げたことがあったそうです。お店側もプロなので、すぐに代わりになるものをお出ししたそうなのですが、ちょっと気まずくなるというか、会食の雰囲気に影響が出たみたいです。これは、会食に参加する皆様の好みやアレルギーを事前に把握できていなかったことが原因だと思います。
ほかには、予算に関するトラブルもあります。予算を決めて、お店にお伝えできていなかったので、ゲストが自由にお酒を注文してしまい、後日請求した際に先方の秘書の方から「こちら側の予算を超過しているため、どうにかなりませんか」と相談されたという話も聞いたことがあります。
秘書としては、良い会食にするために、必要な情報は事前に把握し、お店側にもきちんとお伝えしておくべきです。お店の方にお話を聞くと、「プロだから100%のおもてなしをしたいし、その自信もある。ただ、事前に十分な情報をいただけないことがあり、そういう場合はとても困る」とおっしゃっていました。
事前に十分な情報をお伝えできていないから、サービス提供に時間がかかってしまう。結果として、ゲストの皆様やボスが「このお店はオペレーションが悪いな」という印象を持ってしまうことがあります。そうなると、次からはそのお店は会食の候補からはずれてしまいます。
そうならないように、ゲストの皆様への配慮、ボスへの配慮に加えて、会食で使うお店への配慮までをしっかり徹底して、良い会食を目指していただきたいと思います。

まとめ
水野 :秘書の目線で手土産と会食をテーマにいろいろと語っていただきました。最後にまとめをお願いします。
渡邉 :私は、手土産はビジネスを成功に導くツールで、会食はビジネスを成功に導くイベントだと考えています。秘書の方々には、この観点を仕事の成果の指標のひとつとして捉えていただくと良いのではないかと思っています。
たとえば営業の方であれば、「1ヶ月でこれだけの売上をつくりました」という具合に仕事の成果を可視化できるじゃないですか。でも、秘書にはそれがない。だから、手土産や会食を通じて、ボスの仕事を成功に近づけることができたのかがポイントになると思うんです。
もちろん、気遣いやホスピタリティ、情報収集やマーケティングを念頭に置いた日々の行動は数値化が難しい部分ではあります。ただ、毎日の細かな積み重ねが、ビジネスの大きな成功に寄与することはよくあります。「ここが秘書の力量の見せ所だ」と思って、努力と工夫を積み上げていただければと思っています。
水野 :「先方に喜んでいただきたい」という気持ちを持っていても、それをアピールしすぎると「その方にとって重たくなってしまうんじゃないか」と躊躇してしまうことがありそうです。しかし、本日いろんなお話をお聞きして、もっとカジュアルに、もっとフランクに、自分の気持ちを表せば良いんじゃないかと思いました。
気持ちを伝えるのは悪いことじゃないですし、先方に喜んでいただけたら、その方にとっても良いことですしね。
渡邉 :おっしゃる通りだと思います。手土産も会食も、お相手の方があってのものです。いろいろと試してみて、リアクションをもらいながら学んでいくことが非常に大切だと思っています。「これさえやっておけば絶対に大丈夫」という正解は残念ながらありません。時代や流行によって、これまで良しとされていたことが変わることもあるからです。
トライアンドエラーが必ず発生するので、恐れずにやってみることが大事だと思います。良いリアクションが返ってきたら「もっとやってみよう」という気持ちになるはずです。まずは、小さなことでいいので、お相手の方に喜んでいただくための最初の一歩を踏み出してみて欲しいなと思います。
水野 :本日はお時間をいただきありがとうございました!


