ご自身について
水野 :今日はお時間をいただきありがとうございます。まず、簡単にジェイさんの自己紹介をお願いします。
ジェイ :僕のキャリアをざっくりお伝えすると、今年で38歳になるのですが、スタートアップやベンチャーで「一人目の営業」というのを4社で経験しています。
すごく遡ってお伝えすると、高校の体育学科を出ています。同級生はみんな体育大学に行って体育の教師になるみたいな学校だったのですが、これまで小中高とずっと学校に通っていて、「これから先も学校で仕事をする人生はどうなんだろう?」と思っちゃいまして。それで浪人をしたのですが、「これがやりたい」という目的を持っていなかったので、ただ浪人しているという感じでした。
浪人中に建築に興味が出てきたので、22歳くらいのときに建築の専門学校に行ったんです。都市開発計画を踏まえて、「この土地にどういう建物をつくるか、そのときのコンセプトはどうするか?」みたいなことを考えてプレゼンするような授業が多かったんですけど、それがむちゃくちゃ楽しかったんですよ。いまの仕事に紐づけると、このときに全体を俯瞰することとか、わかりやすくプレゼンするとか、そういうことの下地ができたんじゃないかなと思います。
当時は建築事務所に行きたかったんですけど、インターンに行ってみたら「ちょっと違うな」と感じてしまいました。専門学校のときは楽しくデザインができていたのに、設計事務所に行くと方向性が決まったものに対して、それを形にしていく仕事のように感じてしまって。なんだか、若いときはすごくキャリアの迷子でしたね(笑)。
そのときはもう20代中盤くらいなのですが、昔の同級生と会ったりするとみんなビジネスの話をするんですよ。「大学出て、営業をはじめて、いま何千万円とか何億円の案件を担当してる」みたいな。学生時代は「そこまで目立っていたわけではないな」と思っていた人達が、イキイキとビジネスの話をしているのを見たときに、「じゃあ俺も営業をやってみるか」という感じで27歳のときに営業の世界に飛び込んだという流れになります。

水野 :一般的には、少し遅いスタートですよね。どのような営業をしていたのかお聞きできますか?
ジェイ :最初は20人くらいの会社で広告営業をやっていました。リアルプロモーションの営業で、メーカーとかのお客様に、「カフェで広告やりませんか?」「サンプリングしませんか?」というのを提案していました。
最初は本当に結果が出なかったですね。案件をいただいて、ディレクションして、運用して、成果をレポートして、という感じで全部のプロセスをひとりでやる営業だったので、そこそこの難易度だったこともあり、とにかく売れなかったです。
営業会議でボコボコに言われしまい「社内にいて売上があがると思っているのか!」とか、「売れないのはお前に笑顔が足りないからだ!」みたいなことを言われて、怒られて、気持ちが落ちていくみたいな。結果が出ない日々が続いて、本当に逃げるように辞めました。
転職先を探そうと思って人材エージェントに相談したのですが、そのときに「最初は良いマーケットに行ったほうがいいですよ」というアドバイスをもらったんです。厳しいマーケットでキャリアをスタートさせると、売りにくい商材を売ることになるじゃないですか。自分の能力もまだ未熟なので、掛け算すると最悪の結果になる。だから、能力が未熟なうちは、伸びているマーケットで成功体験を積んだほうがいいというアドバイスで、「なるほど!」と思いましたね。
そのときは、スマホゲームがすごく伸びている時期でした。いろんな会社が次々と新しいゲームをリリースしていて、売上も急成長していたので、「ゲーム業界とかどうですか?」と紹介してくれたんです。コンシューマーゲームは人並みにやったことがありましたが、スマホゲームはやったことがなかったんです。でもいろいろ話を聞いてみるとおもしろそうだったので転職してみたという感じです。
▶︎ 自身に訪れたターニングポイントとは
ジェイ :株式会社AppBroadCastというベンチャーで、スマホゲームの広告営業をすることになるのですが、ここが完全に僕のターニングポイントでした。それまでは「笑顔がないから売れないんだ!」と言われて、成果を出すために営業の本とかも買って読んでいたのですが、それでも売れなくて。でも、転職した会社の社長は「営業のやり方とかどうでもいいから、とにかくお客さんに好かれてこい」って言うんですよ。
僕は当時から「ジェイ」と呼ばれていたのですが、「ジェイはスマホゲームとか知らないでしょ。福利厚生で会社からお金が出るから、それでゲームやってみたら?」とアドバイスをもらいました。実際にやってみたら「なにこれ、おもしろい!」となって、どんどんハマっていって、めちゃくちゃ課金して(笑)。「こんなおもしろいゲームをどうやってつくってるんだろう?」「スマホゲーム業界のプロデューサーの人たちは何を考えているんだろう?」と興味が出てきたので、連絡して、一緒にご飯を食べにいくようになったんです。
お話するなかで、「こういうことがやりたいんだな」とか「こういう情報が欲しいんだな」ということが少しずつわかってきたので、「あっちのゲーム会社さんはこんなことを言ってましたよ。良ければお繋ぎしましょうか?」みたいに橋渡しをするようになりました。するとみなさん喜んでくださって、気がついたら受注できるようになっていて、売上をあげられるようになったんです。
「お客様と密に接して、仲良くなることが重要なんだな」ということに気づけたことが、僕にとっては本当に大きなターニングポイントでした。ちなみに、そのとき「お客さんに好かれてこい」と言ってくれた人は、その後会社を売却して株式会社StartPassという会社を立ち上げたのですが、この3月から僕もジョインしてStartPassで働いています。
水野 :それはなんか、ちょっとエモいですね(笑)。いまのエピソードは「お客様に興味を持って、お客様が喜ぶことは何か?を考えるようになったら成果が出た」というのが大きな学びだったと理解したのですが、ほかにもターニングポイントと言えるようなことはあったのでしょうか?
ジェイ :そうですね。次のターニングポイントは、株式会社Rocketsというセールステックの会社でCSO(最高戦略責任者)をやっていたときですね。何があったかというと、自ら発信をするようになったんです。
当時の僕は、0→1フェーズのスタートアップとかベンチャーが好きだったのですが、何が好きかと言うと、いろいろなものが未整備な状態なのですが、そのカオスの中で何かを立ち上げていく営業のプロセスが本当におもしろかったんですね。お客様のために動いていくということはデフォルトで大事なのですが、それを加速するためにも発信が必要だと思ったんです。良い情報を出せば、その情報に興味を持った人が寄ってきてくれて、さらにいろんな情報が集まる。すると、また良い情報が出せる。いわゆる営業活動って、お客様と会って、対話して、サービスの価値を伝えて、フィードバックを含めて新しい情報をもらい、それを次に活かすというサイクルだと思うのですが、普段やっているこの営みが、SNSを使えば青天井でできると思ったんです。やろうと思えばいくらでも発信できますし、昨日の投稿を今日見る人がいるわけなので、時間的な制限も受けない。
そう考えたときに、「これだ!」と感じたんですよね。それがいまから5年くらい前の2020年ごろだったと思います。当時はビジネスアカウントが増え始めたときだったので、まず X と note のアカウントをつくって発信を始めました。そしたらいろいろと反響をいただくようになって、そこからはいろんな人とコンタクトを取りにいったという感じです。
現在、営業系の書籍を出されている方々とは、多くの方とご縁をいただいており、一定の繋がりは持てているのではないかと思います。ただ、僕が自分で発信していなかったら、繋がっていないでしょうね。発信するようになったからこそ、繋がることができたと思います。

水野 :2020年ごろといえば、まだそのようなアカウントは多くなかったですよね?
ジェイ :いくつかブームの波があったと思うのですが、僕のひとつ前のブームの時は、匿名アカウントでしたね。そこから少しずつ実名アカウントが増えてきたのが僕の世代だと思います。
僕の場合は、けっこう初期のタイミングで発信を始めたというのが大きいかもしれないです。早めに始めて、いまでも続けているので。自分で発信して、会社の枠を越えていろんな方と繋がることができて、そこからさらに独自のポジションを探すようにもなりましたし。
XのあとにVoicyを始めたのですが、営業のことをラジオで発信している人が当時ほとんどいなかったからです。たぶん2人くらいしかいなかったと思うんですよ。だから自分で応募したんです。そしたら「金髪の人が真面目に営業について語るっておもしろいですね」と言ってもらえて、Voicyのパーソナリティーに合格したんですよ(笑)。
営業も同じだと思うのですが、提案する際に、どうやって差別化して、独自のポジショニングを取るのかってとても大切じゃないですか。そういうことを考えるのは個人的にすごく好きなんです。だから、営業のことを話している人がほとんどいないVoicyというプラットフォームに対して、「金髪の僕が営業のことを熱く語ります」というポジショニングで応募した。そしたら合格して、それ以来 『BUFF RADIO(バフラジオ)』 はいまもずっと続けています。
水野 :ありがとうございます。いろいろと発信をするようになって、多くの方と繋がることができたということですが、それ以外に何か得られたものはありますか?
ジェイ :改善サイクルを細かくまわすことができるようになりましたね。たとえば、『BUFF RADIO(バフラジオ)』の初期のものを聴くとわかるのですが、すごく聴きにくいんですよ。毎日自分の声を聴いて、「聴きにくいな、なんでだろう」と考えてみると、「えー」とか「あのー」といったいわゆるフィラーがあるからだったんです。
せっかく聴いてくれている人がいるのに、「えー」とか「あのー」がたくさん出てくるのは改善したいなと思って、いろいろ調べました。すると「考えがまとまっていないときにフィラーがでやすい」とわかって、事前準備の仕方を変えたりとか。「息を吸うことでフィラーを抑えられるし、話にリズムが出る」と知って、翌日の放送で試してみたりとか。こういうことを毎日くり返していって、少しずつ改善していきました。
SNSの投稿もあとから見返すことができますから、そこから改善ポイントを見つけて短いサイクルでどんどんまわすことができます。発信をするようになって良かったことは、こういった改善の手がかりをたくさん見つけられるようになったということですね。
少し話が飛んでしまいますけど、「改善サイクルを短くまわす」という点では、営業って本当に最高の仕事だと思っています。だって、成長の機会がめちゃくちゃたくさんあるじゃないですか。
たとえば、「自社のサービスを提案するときにこういう説明をしよう」と思いついたら、翌日の商談で試すことができますよね。1日に3件の商談があれば、3回も仮説検証ができます。フィードバックも3個もらえるから、そこからブラッシュアップして、また次の日の商談で3回試せる。これってすごいことだと思っていて。
これがシステム開発の仕事の場合は、「半年かけてこのプロダクトに新しい機能を追加しよう」というプロジェクトがあったら、改善フィードバックがもらえるのって半年後じゃないですか。営業だったら、1日で3つの改善フィードバックが手に入るので、何倍ものスピードで成長できると思うんですよ。
営業とほかの仕事を比べて、職種に優劣があるというわけじゃなくて、「営業という仕事にはこういう特徴があると思う」という個人的な意見なのですが、短いスパンでどんどん改善サイクルをまわせるところが、僕はすごく好きなんです。やろうと思えばどこまでも伸ばすことができるので、すごいですよね(笑)。
▶︎ いまになって思う「これをやっておけば良かった」
水野 :多くの学びを得ていらっしゃいますが、過去をふり返ってみて、いまだから思う「これをやっておけば良かった」というものはありますか?
ジェイ :実はあんまりないんですよね。そもそも、「こうなりたいから、そのために今これをしよう」というタイプなので「あのときに戻れたら」ということを考えることがないんです。
唯一あるとするなら、これまでに自分がやってきたことをちゃんと体系化しておくべきだったと思います。いま、個人的に取り組んでいるのですが、もっと早いうちからやっておけば良かったですね。
たとえばですが、「こういう人と、こういう会話をして、こんな学びがあった」「このお客様と話して、こうだった」というのを全部データとして残しておけば良かったと思います。映像でも音声でもテキストでも、どれがいいかはわからないのですが、データで残してさえいれば、あとから活用できる時代になったので。
それこそ、残しておいたデータを生成AIに食べさせてデータベース化したりとか。そうすれば、自分なりの営業マニュアルとか、すぐにできると思います。「とにかく忙しく毎日をすごしてきた僕」と「形式はどうあれ、ログやデータを残してきた僕」とでは、これから先の伸び幅とか成長スピードが大きく異なると思うんですよね。将来への投資という意味でも、自分の言動や思考、どんな学びを得たのかなどをデータに残して体系化しておくというのは、やっておけば良かったなと思います。
▶︎ 「遅延学習」のススメ
水野 :改善サイクルや学び、体系化という話が出てきたのでお聞きしたいのですが、ジェイさんは普段どのようにインプットしていますか? 世の中にはいろんな「営業の型」や「フレームワーク」がありますが、たとえば「これを使っている」などありますか?

ジェイ :それもあんまりないんですよ。型やフレームワークは好きなのでいろいろ試してみますが、固定のものを使い続けることはしないですね。むしろ、いろいろ試して、引き出しを増やしていって、そこから削ぎ落とされていき、最終的に自分だけの型やフレームワークができたらいいなと思っています。
「どのフレームワークが有効ですか?」とかたまに聞かれたりしますけど、「自分の目についたものを全部試してみたら良いと思うよ」という感じですね。
水野 :なるほど。確認になるのですが、「型やフレームワークは必要ない」ではなくて、「どんどんインプットしていくことで、いずれ必要なものを引き出せるようになる」というニュアンスですかね?
ジェイ :そうですね。フレームワークを使うというのは「How」じゃないですか。何か達成したい目標があって、達成の仕方がわからないからフレームワークを使うと思うんです。逆説的かもしれませんが、目標を達成できるのならどのフレームワークを使ってもいいし、場合によってはフレームワークを使わなくてもいいということだと思います。
「これまでと同じことをやっててもこの目標は達成できないぞ」というときは、素直にフレームワークの力を借りればいいと思います。そうすることで目標を達成できたら、成功体験になってめちゃくちゃうれしいですし。ただ、そのフレームワークがいつも効果的かというと違いますよね。だから、「フレームワークは万能ではない、でも困ったら助けてもらう」くらいの気持ちでいます。
ちなみに僕は『遅延学習』をオススメしています。インプットしてからアウトプットを出すのではなく、アウトプットを出すためにインプットするという感じです。
エンジニアさんは、コードを勉強してからプログラムを書くのではなく、つくりたいものをつくるために適したコードを勉強するとか言いますよね。それと同じです。たとえば僕も、「明日100人の前で営業について話してください」というオファーがあったときに、「100人規模で伝わりやすいようにするには、どんな資料にしなきゃいけないんだっけ?」と考えます。そこからプレゼンのフレームワークをいくつか調べて、自分のオファーの中身に合いそうなものを選ぶという流れですね。
水野 :転職のご支援をしていると、「MBAを取ろうと思っています」という方がいます。理由をうかがうと、「持っていると転職に有利だと思って」みたいな回答がくることもあるんです。そういうときは、「目的が固まっていないのであれば絶対やめたほうがいいと思います」とお伝えしたりします。
ジェイ :僕もそう思います。たとえば、「会社の経営会議に出ることになって、いろんな有名企業のケーススタディを学んだほうがいいと思って」とか、「商談相手が経営者ばかりなので、同じ目線を持ちたくて」とかであれば、MBAに通うのはめちゃくちゃアリですよね。コストと時間を使って、取りにいったほうがいいと思います。でも、おっしゃる通りで、目的と手段が逆の場合は、ちゃんと考えてからのほうがいいですよね。


