ThinkD
トップ›TOP RUNNERS›カスタマーサクセスを科学する。 Vol.1
TOP RUNNERSVol.1

株式会社カケハシ

「自立」と「変化」。現場を変えるためのアプローチ。

過酷な環境やトラブルシューティングの現場で泥臭くキャリアを重ね、現在はカケハシのエンタープライズカスタマーサクセスを率いる早川氏。顧客を依存させずに自立へ導く独自のスタンスをはじめ、再来率10%向上を証明したデータ分析、動かない現場を動かす「評価制度」への組み込みなど、顧客の現場を変える構造的なアプローチについてお聞きしました。株式会社カケハシの早川氏とディプコア代表の水野による対談、Vol.1です。

2026.11.05
「自立」と「変化」。現場を変えるためのアプローチ。
早川 潤

早川 潤

株式会社カケハシ エンタープライズカスタマーサクセス部 統括部長

インテリア専門商社やスポーツ系メディアの営業を経験後、ERPパッケージのベンダーへ転職。営業や戦略コンサルティング、大規模案件のシステム導入を担当する。2019年、カケハシに入社。大手向け法人営業やカスタマーサクセスまで幅広く担当し、2021年よりカスタマーサクセス組織のマネジメントに従事している。

水野 歩

水野 歩

株式会社ディプコア 代表取締役CEO

法人営業としてキャリアをスタート。神戸支社長・中国の現地法人副社長・本社営業部長などを歴任し、年間社長賞・社長賞特別賞・ベストマネージャー賞などを受賞。人材紹介会社に転籍後、日系スタートアップやグローバル日系企業に特化した人材紹介部門を立ち上げ、個人でも年間売上1位・年間決定数1位を獲得。2017年に株式会社ディプコアを設立。中小企業診断士、事業承継士。現在は転職エージェント事業だけでなく、自社プロダクトやメディアの立ち上げや運営も兼務している。

詳細はこちら

はじめに

水野 :オンラインでは長いお付き合いですが、実はリアルでお会いするのは、これが初めてですね!今日はよろしくお願いいたします。まず最初に改めまして、株式会社カケハシの事業内容やプロダクトについて、簡単に教えていただけますでしょうか?


早川 :確かに、なんだか不思議な感覚ですね(笑)。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。簡単に会社やプロダクトについて説明させていただくと、カケハシは『日本の医療体験を、しなやかに。』をミッションに掲げ、主に調剤薬局向けのクラウド型プロダクトやサービスを提供しているスタートアップです。

主力のプロダクトであるクラウド型電子薬歴『Musubi(ムスビ)』は、薬局・薬剤師と患者さん“双方”の薬局体験をより良く変える次世代型の業務支援サービスです。『Musubi』のタブレット端末を一緒に見ながら服薬指導(※)をしたり、健康状態を見たり、生活習慣にあわせたアドバイスをすることができ、薬歴業務の効率化と患者さんへの提供価値の向上を“これ一つ”で実現することができます。

(※)服薬指導:薬剤師が患者に対して処方薬の正しい使い方、効能・効果、副作用、飲み合わせ、保管方法などを説明し、適切に使用できるよう支援する業務のこと。

一番のコンセプトは、薬局に来てくださった患者さんに「この薬局に来てよかった」と思っていただけるように、医療や患者体験を向上させること。そして、その現場で働く薬剤師さんの業務負担を軽減し、患者さんに向き合うための時間的・心理的な余裕をつくることです。

私自身は、大手ドラッグストアや広域調剤チェーンなどの法人を担当するカスタマーサクセス部門のグループマネージャーとして、多店舗への導入プロジェクト推進や利活用支援、成果創出に取り組んでいます。今日はよろしくお願いします。



エンタープライズCSの役割と「自立支援」のスタンス

水野 :「カスタマーサクセス(以下CS)」をテーマに置き、実際の案件で何をどのように見て、どんな判断をされてきたのか。具体的に伺っていきます。まず最初に、いま担当されているCSの仕事内容について詳しく教えてください。

早川 :カケハシでは領域によってチームが分かれているのですが、私は大手法人様向けのCS部で、いくつかのチームを束ねるグループマネージャーをしています。

大手法人様向けになりますので、セールスと一緒にアカウントプランを作成したり、それがオンスケジュールで導入できているか、プラン通りに進んでいるかなどを確認していきます。うまく進んでいない課題があれば、一緒にトラブルシューティングもします。あとは、社歴が長いこともありますので、開発部門と連携を取ったり、新サービスのレビューを担当することもあります。



水野 :グループマネージャーとして、具体的にどれくらいの規模の組織を見ているのですか?



早川 :レイヤーで言うと、メンバー、チーフ、チームマネージャーがいて、その上にグループがあり、そこからディビジョンマネージャー、執行役員という構造になっています。私のところは3つのチームを束ねています。CS部全体の22名のうち、直下のメンバーは大体15名前後になります。



水野 :カケハシのCSの仕事において、お客様がどのような状態になったら「成果が出た」と言えるのでしょうか?


早川 :まず前提として、成果の最終的なゴールはお客様がやりたいことや、「こういう薬局をつくりたい」といった目標が実現できることだと思っています。ただ、最初の目標を実現できたら次の目標が出てくるので、終着点があるわけではなく永遠にやり続けるものだと考えています。

この前提を置いた上で、目の前の成果指標について考えると、大きく分けて「導入」と実際の利活用である「CSポイント」の2つがあると思います。

まず導入面でいうと、一般的なシステム導入のように「一斉にカットオーバーして完了」というやり方ではなく、1店舗ずつ順次導入していくのが私たちの特徴です。たとえば大手法人様だと「今月は20店舗導入する」というやり方を繰り返し、2〜3年かけて全店展開していくこともあります。そのため、計画通りに毎月導入が進んでいるかがひとつの成果指標になります。

ただ、導入の進捗だけを追ってしまうと、すでに2年使っている店舗と導入したばかりの店舗、まだ導入していない店舗で状況がバラバラになり、既存店舗のサポートが不十分になってしまいます。そのため、すでに使っている店舗に対しては、事前にお客様と約束した「利活用の数字や状態」がちゃんと実現できているかを指標にしています。



水野 :「利活用の指標」というのは、具体的には、お客様と「いつ」「どのような内容」をすり合わせるのでしょうか?



早川 :大きく2つの観点ですり合わせるのですが、いずれも、先ほどの「業務効率化」と「患者さんの体験向上・薬剤師の医療体験向上」というコンセプトに基づきます。

一番大切なのは、薬局に来てくださった患者さんに価値を届けることですが、薬剤師さんは日々とても忙しいのでその余裕がありません。だからこそ、プロダクトを通じて業務効率化を図り、時間的・精神的な余裕をつくっていただく。そして、その余裕を患者さんに向けていただくという順番です。

具体的な数字で言うと、まず業務効率化の観点だと「薬歴の記載時間」です。導入前は現場でストップウォッチを使ってアナログに測ってもらうのですが、元々は2分かかっていた記載時間を、私たちのプロダクトを使うことで60秒や40秒に短縮できたかを見ていきます。そして、そういった数値の目標をお客様の本部と事前にしっかりとすり合わせます。

患者さんの体験向上という観点では、患者さんに向けたコンテンツ利用率などを自社のBIツールで計測し、「利用率何%以上」という目標を設定して追っています。



水野 :導入や利活用の支援を進める上で、特に意識されていることはありますか?


早川 :すごく意識しているのは、「お客様に自立していただくこと」です。もし私たちが直接現場に入ってすべてを立ち上げてしまうと、私たちがお客様の足枷になってしまいます。私たちが訪問し続けたり、私たちが手を動かし続けなければお客様の現場が回らない状態になると、最終的にはお客様の現場が立ち行かなくなってしまうからです。

そうではなく、お客様の組織のなかに「現場を立ち上げられる人」を私たちが育てる。そうすることで、その人たちが中心になって自分たちの力で社内で広げていってくださいます。私たちが介在しなくても、お客様が自立し、お客様の力で良くなっていく状態をつくることを強く意識しています。



水野 :一般的には、自分たちが関わり続けることで価値を出そうとしたり、ときには抱え込もうとするケースもあると思います。なぜ、そこまで「お客様の自立」にこだわるのでしょうか?



早川 :お客様にとって一番良い状態は何か?を考えたときに、私たちに依存することなく自立できているほうが良いからです。

お客様に自立してもらえると、CSである自分たちに物理的・時間的な余裕ができます。その余裕を使って、また新しい提案ができるようになります。それに、お客様が自立を目指して立ち上がっていく過程で、何かあったら一番に相談してもらえるような強いパートナーシップが生まれます。「うまくいかないことがあるから相談に乗ってほしい」とか「こういうことをやりたいんだけど、どう思いますか?」とか、自然と声をかけていただけるようになるんです。

そうすると、お客様が次に何を目指しているのかというニーズの解像度が高くなり、新しいビジネスチャンスや、新サービス、新プロダクトの提案にもつながっていきます。

実際に、いま開発を進めている『クラウド型レセコン(※)』などの新しい提案も、コアなお客様と深い関係性がつくれているからこそ、すごく前向きに「一緒につくっていきたい」と言っていただける状態になっています。

単に私たちが何かをし続けなければいけないのではなく、「最終的にどのような成果が出ているか」というアウトカムの部分を追求することが何よりも大切なのだと思います。

(※)クラウド型レセコン:現在、薬局では専用のサーバーを設置し、内部のネットワークでデータを管理・運用するオンプレミス型レセプトコンピュータを使うことが主流。それをクラウド化することで、患者情報や処方情報などを一元管理し、法人全体でのリアルタイムなデータ分析や店舗運営がサポートできると言われている。



水野 :カケハシではセールスとサポートが別にいらっしゃるとお聞きしました。そのような体制のなかで、CSが最後まで責任を持つのはどこからどこまでになるのでしょうか?


早川 :責任という意味では、まず契約を取ってくるまでがセールスの役割です。そこからバトンを引き継ぐ形で、導入をしっかりとやり切るのがCSの大きな責任になります。ただ、導入したら終わりではなく、その後にセールスとCSで役割分担しながら、最初に立てたアカウントプランを形にできているかを追うところまでがCSとして責任を持つ領域になります。

水野 :これまでのご経歴の中で、現在のCSの仕事に活きていると感じる経験や学びはありますか?ERPの導入支援や営業・CSの両方を経験されていることなど含めて、いかがでしょうか。


早川 :私はカケハシが4社目で、それまでの3社はすべて違う仕事をしてきたのですが、それぞれ今に活きていると感じています。

1社目では、とにかくスピード感が鍛えられました。「電話が鳴ったらワンコールで出る」というルールで、出た瞬間に状況を判断して対応しなければならない環境でした。

2社目は自転車の雑誌やイベントの企画と営業をしていたのですが、売り物を自分でつくらなければいけない環境でした。「どうすればお客様に面白がってもらえるか」を考えつつ、「どういうことをやりたいですか?」とお客様と壁打ちしながらニーズを探っていく経験をしました。

3社目では、ERPの導入において問題が発生しているプロジェクトのトラブルシューティングを担当していました。私が所属していたのは特殊なチームで、まわりが導入進捗の話をしているなかで、私はひたすら課題解決の対応をしていました。ときにはいろんな問題が同時に発生しているプロジェクトもありましたが、「出せるカードは何で、どの順番でカードを切っていけば状況が前進するか」を徹底的に叩き込まれました。

臨機応変さや企画をつくる力、社内の役員を含めて「自分が出せるカードはすべて使って、課題を解決しにいく」という姿勢は、これまでに培ってきたものが背骨のようにつながっていると感じていますね。



顧客の現場を変えるために

水野 :次に、実際のお客様との仕事について、より具体的に伺っていきたいと思います。お客様との打ち合わせの際に、患者さんの再来率を分析し、そこからお客様の評価制度について話し合った事例があったとお聞きしました。どのような経緯だったのか教えてください。


早川 :はい。そもそも大手の法人であればあるほど、「導入して良かったね」では終わりません。投資したものに対してどれだけの効果が出ているのか、いわゆるROIを明確に示す必要があります。

たとえば「薬歴作成の時間が2分から1分に短縮され、1日あたりの件数と薬剤師さんの単価を掛け合わせると年間でこれくらいの削減効果になります」という業務効率化の試算は基本的にお出しします。ただ、それだけではなく「もっとプラスアルファの効果はないか」というリクエストが当然ながら出てきます。

大手薬局チェーン様の事例だと、役員の方が数字に強いこだわりをお持ちで、マイナスをゼロにすることはもちろん、「ゼロをプラスにできた成果の数字はありませんか?」と求められたことが始まりです。



水野 :お客様の要望が出てきてから、どうやって数字を分析していったのですか?



早川 :当時は、私たちもそこまで深い分析をし切れていない部分がありました。ただ、ちょうど社内の開発側で新しいデータ分析ができる専門チームが立ち上がったんです。そこで、代表の中川やデータ分析チームと一緒に、どういうプラスの数字が出せるのかディスカッションと分析を進めていきました。

そこで着目したのが、『健康アドバイス』という患者さんに向けたコンテンツです。これは患者さんの処方内容や服用中の薬剤、生活習慣などをシステムが分析し、一人ひとりに適したアドバイスを自動で選出するものです。

使ってもらうことによって患者さんの満足度が上がり、「もう一度この薬局に来よう」と思ってもらえるようにつくったものです。このコンテンツがどのような効果につながっているのかを実際に検証してみることになりました。

「意味のあるデータが出なかったらどうしよう」とすごくドキドキしながら分析したのですが(笑)、ありがたいことに明確な差が出たんです。『健康アドバイス』というイラスト付きのコンテンツを提供した患者様とそうではない患者様の再来率を比較したところ、約10%の有意差があることがわかりました。


水野 :そんなに差が出るのですね。そのデータを見たお客様の反応はいかがでしたか?


早川 :お客様も、「これはすごい。全社で使っていこう」と言ってくださり、役員の方を中心に現場に向けて「どんどん使いなさい」と号令をかけてくださいました。

さらにすごかったのが、その後のお客様自身での取り組みです。『PocketMusubi』というLINEを活用した患者さん向けのフォローアップサービスがあるのですが、お客様が自らデータ分析を進めてくださったんです。

新規の患者さんへのフォローの有無によって、どのような変化が生まれるのかを独自に検証してくださり、その結果、フォローを実施することによる明確な優位性が確認できました。

私たちはデータ分析画面の見方やレポートのつくり方をお伝えしていただけだったのですが、お客様が自主的にデータ分析までやってくださり、驚きました。


水野 :「お客様の自立」がまさに実践されていますね。ちなみに、「再来率が10%上がるから『健康アドバイス』というコンテンツを使おう」と本部が号令をかけると、実際の現場はすぐに動くものでしょうか?


早川 :そこがまさに、現場を変える上での一番の難しさだと思います。少子高齢化や人口減少が進むなかで、「患者さんに選ばれる薬局になる」「再来率を上げる」というのは業界では喉から手が出るほど欲しい成果です。ですが、「再来率が10%上がる事例があるからどんどん活用しましょう」と本部から伝えても、現場の薬剤師さんはなかなか動きません。「そうなんだ」で終わってしまいます。

なぜなら、現場の薬剤師さんはとても忙しいからです。そういう意味では、「動かない」と言うよりも「動けない」が正しいかもしれません。ただでさえ忙しいので、仕事のやり方を変えることは現場にとって非常に高いハードルなんです。

仕事の進め方を変え、結果的に再来率が10%上がったとしても、自分のお給料やボーナスが増えるわけではありません。現場にとって直接的なメリットがないので、一部は変わるものの、全体は変わりません。

水野 :その課題に対してどのようにアプローチされたのですか?


早川 :現場を動かすためには、「明確なインセンティブ」を提示する必要があると考えました。それも、中からと外からの「両方から光を当てるアプローチ」が必要だと。

「外からの光」は、たとえば、グルメサイトが発表しているアワードのようなものを想像してみてください。第三者であるカケハシが「この薬局、この薬剤師さんは素晴らしい取り組みをしている」と取り上げて光を当てることで、毎日がんばっている現場の人たちが自分の仕事に誇りを持てるようにする仕組みです。これは数年がかりで取り組んでいく構想になります。

そして「中からの光」は、お客様の社内における評価制度への組み込みです。現場の行動やプロダクトの活用成果が、自分のお給料やボーナスといった明確な評価に直結する仕組みをつくることです。



水野 :お客様である企業の評価体系を変えることは、相当な難易度だと思いますが…。


早川 :おっしゃる通りで、非常に難易度が高いです。「評価制度に入れましょう」と提案しても、「ビジネスメリットがどこまであるのか?」という議論になります。ドラッグストアチェーンの場合は、どうしても店舗側が売上の多くを占めるため、調剤側の意見が検討の土台に乗るまでに時間がかかるということもあります。さらに、店舗によって立地や処方箋の傾向が異なるので、店舗ごとや薬剤師さんごとに評価するのが難しいという壁もあります。

そこで私が担当している大手のお客様で取った方法が、店舗単位ではなく「ブロック長の評価指標に入れる」というものでした。

複数のエリアで構成されるブロック単位であれば、大きな総合病院前の店舗もあれば、小さな店舗もあり、全体でだいたい平均化されます。そのため「自分が担当するブロックで、どのように工夫してサービスの活用数と成果の数字を上げるか」という形で、ブロック長の方々の評価指標に組み込んでいただきました。

すると、ものすごくわかりやすく現場の行動が変わったんです。何年間も「7%」ほどで停滞していたコンテンツ利用率が、評価制度に組み込んだらわずか6ヶ月で「30%」まで急上昇しました。


水野 :評価と直結したことで、現場の動きが一気に変わった事例ですね。


早川 :まさにそうだと思います。機能として「使い方がわかる」というレベルと、現場の運用に乗り「日常的に使われている」というレベルとでは、まったくの別物です。私たちはバーティカルSaaS(※)を提供しているからこそ、お客様の現場の運用にまで深く潜り込み、「本当に使い切ってもらえる状態」をつくることが大切です。そのためにも、どうすれば現場が変わるのかを突き詰めて考え、さまざまな提案をしていくことが重要なのだと思います。

(※)バーティカルSaaS:特定の業界・業種に特化して提供されるクラウド型ソフトウェア(SaaS)のこと。

この記事をシェア