ご自身について
水野 :今日はお時間をいただき、ありがとうございます。最初に、簡単で結構ですので自己紹介をお願いしてもいいでしょうか?
高橋 :株式会社ログラスの高橋です。新卒でキーエンスという会社に入社して、5年ほど営業をしていました。最初は海老名のあたりを担当していて、その後はトヨタ系列会社など愛知エリアをまわっていました。子どもが生まれたタイミングで転職を考えるようになり、転職で東京に戻ってきました。
転職したのはログラスというスタートアップで、僕は15人目くらいの社員だったと思います。1人目のセールスとして入社して、営業をやったり、採用をやったり、戦略づくりをしたり、エンタープライズ統括部という大企業向けの営業統括をしたりして、いまはイネーブルメント室の室長をしながら現場の営業にも携わっているという感じになります。
水野 :いろいろと経験されていらっしゃいますね。さっそくですが、これまでのキャリアの中で「やってきて良かった」と思うこと、そして逆に「これをやっておけば良かった」と思うことはありますか?
高橋 :「やってきて良かった」という点で言うと、やっぱり営業という仕事は経験できて良かったと思っています。営業は人生を豊かにしてくれると思うんです。これは個人的な考えですが、仲良くしている他の会社の人たちと話をしていても、みんな言ってますね。
広い意味で「営業」とは何かを考えると、僕は対人スキルだと思っています。目の前にいるこの人はどんな考えの持ち主で、どんな情報や言葉を渡せば喜んでくれるだろう。期待されていることに対して、どうやって踏み込んで行ったらいいだろう。そういうことを本気で考えるようになったのは営業の仕事を始めたからですし、そのきっかけをもらえたことは本当に良かったと思っています。
営業を続けていくなかで、さらに良かったなと思ったのは財務知識を手に入れたことです。これはログラスで仕事をするようになってから身につけた知識ですが、なぜ良かったかと言うと、営業活動って基本的にはお客様の利益を最大化するための仕事だと思うからです。
売上を伸ばすでも、コストを下げるでも、リスクを下げるでも、どれでもいいですが、利益の最大化を実現するためにはお客様の利益構造を理解することが必要になります。どのレバーを引っ張ればどれくらい利益が伸びるのかだったり、どこに投資をしているのかだったり、そういうことがわからないと、結局は表面的な提案で終わってしまうと思うんです。簡単に言えば物売りで終わってしまう。
キーエンスで営業をしていたときのことをふり返ると、僕は物売りで終わっていたと思っています。ログラスに入社をしたことで、財務三表を読むことができるようになって、お客様の利益構造が理解できるようになり、「このお客様はどうやったら利益を上げることができるのか」が考えられるようになりました。結果として、お客様の悩みや課題に対して、本質的な提案ができるようになったと思っています。受注額も大きくなりましたし、財務知識を理解するのは大変でしたが、やって良かったと思っています。
▶︎ 転職して変わった営業スタイル
水野 :キーエンス時代とログラスにいる現在とで営業の仕方が変わったと言うことですが、具体的にはどのような違いがあったのでしょう?
高橋 :簡単に言えば、商談相手が違うということでしょうか。商談相手が違うから、営業の仕方も違うというのが回答になるかと思います。
キーエンスにいたときに求められたのは、質の高い製品をたくさん売ることでした。いろんな事業部がある会社なので、全体に当てはまるわけではないのですが、少なくとも僕が所属していたのは低価格センサーをたくさん売ることを目的とする部署でした。
提案先となるのは工場の担当者の方で、センサーの良さを説明すれば売れたんです。自社製品のプロになって、製品の良さを徹底的に説明する。その商談をたっくさんやる。そういう営業スタイルでした。このやり方を否定するつもりはまったくなくて、最も成果が出るからこのやり方なんですよね。
それに対してログラスの場合は、基本的に経営者向けのサービスになります。財務の知識や利益構造がわかっていなければ、そもそも会話になりません。そのため、なかば強制的に自分をアップデートしていったという経緯があります。その結果、見えるものが変わり、できることが増えたと思っています。
水野 :強制的にアップデートというのは、社内に何か学ぶための材料があったのでしょうか?それとも、ご自身で何かに取り組んだとかですか?
高橋 :それで言うと、自分でいろいろやってみたというのが合っているかもしれません。社外の人たちと話しているときに、「営業は、物を売るんじゃなくて、お客様の利益を上げなきゃいけないよね。そのためにはまず、お客様に興味を持たないと始まらないね」という話になったんです。「確かにそうだな」と思って、そこからお客様にたくさん質問するようになりました。「御社のビジネスモデルだとここがキャッシュポイントだと思うのですが、あってますか?」みたいに。
個人的にラッキーだったなと思うのは、営業として実力も知名度もある方たちと、SNSでつながりがあったことです。彼らといろんな話をするなかで、「確かにな」「大事だな」と思ったことを実行していったので。
▶︎ SNSは成長するためのツール
水野 :SNSはどのようなきっかけで始めたのですか?
高橋 :もともとはログラスの採用ですね。会社の採用活動に対して何かプラスになればいいなと思って Xのアカウント をつくったのが始まりです。色々やっていく中で、想像以上にたくさんの人とつながることができました。
Xでのやり取りを通じて、そこから100人以上の方とお会いしているのですが、これはとても価値があることだと思っています。社内で学べることもたくさんありますけど、僕は社外で学べることのほうが多いと思っていて、いろんな人と会うことで本当に多くのインプットができるんです。
インプットしたことをすぐにアウトプットするために、 note も始めました。これは、インプットしたことを自分の言葉で話せるように書いているもので、どうせ書くのであれば外から見える場所に置いたほうが自分自身のブランディングになると思い、noteにしました。
水野 :そういう経緯があったのですね。逆に、「これをやっておけば良かった」というものはありますか?
高橋 :どこまで遡るかにもよりますが、社会人1年目とかに戻れるとするなら、ビジネスとしてXをやっておけば良かったなと思いますね。
これはあくまで僕個人の見解ですが、新卒で会社に入ると、それが世界のすべてだと思ってしまうじゃないですか。「ウチが正解で、ウチが最強」みたいな(笑)。でも、外に出てみると全然そんなことはなくて、学べることや刺激がたくさんあるなと思いました。
もっと早いうちからXをやっていれば、外の世界からたくさんのことを学んでいたんじゃないかと思います。僕はいま30歳ですが、いまと同じことを25歳くらいでできていたと思いますね。Xはひとつの例ですけど、外の世界に目を向けて、情報を取りに行く動きは、時間が巻き戻せるのであればもっと早くからやっておきたかったなと思います。
水野 :広い視野を持つことは大切ですよね。SNSで発信されている内容を拝見すると、周囲に対してすごく感謝されていますよね。もともとそういうタイプなのですか?
高橋 :これはログラスに入社してからですね。なぜそうなったのかを考えると、シンプルに他部署との距離が近いからだと思います。物理的に近い距離でいろんな部署の人が仕事をしているので、彼らの頑張りとか、どういう思いで仕事をしているのかとか、そういうのがすごくわかるようになったんです。
前職のキーエンスでは、たとえば開発の人とは会ったこともありませんでした。製品が素晴らしく、その完成された製品をシンプルに営業として売るという行動だけでも成果が出たので。大きな会社なのでしょうがないことですが、自分にできない事をやっている人たちを身近で見ていると、自ずと感謝の気持ちが生まれますね。
個人的には、自分ができないことができる人って、尊敬の対象なんですよ。「プログラミングのコード書いて」と言われても僕は書けないですから、シンプルに「すごいな」と思います。たとえばプログラミングやマーケティングとか、人事やバックオフィスの仕事とか、僕ができないことで価値を出している人たちのことはすごく尊敬していますし、そういう人たちのがんばりのおかげで営業ができていると思っています。
大切なのは、お客様との「会話」
水野 :少し実務寄りの話になりますが、営業の型やフレームワークのようなものは使いますか?
高橋 :「BANT」や「MEDDIC」とかは、基本的に意識してないです。僕が意識しているのは、ちゃんと会話になっているか。これはものすごく意識しています。
商談を録音して、話者比率がわかるアプリとかあるじゃないですか。結果を見てみると、「営業が会社やサービスを説明」→「お客様の状況をヒアリング」→「感想を聞いて」→「ネクストアクションを設定する」という流れになっていることがほとんどだと思います。
これだと、こちら側がずっと話して、少しだけお客様の時間があって、またこちら側が話して、という流れになるんです。10くらいの量を話して、1を返してもらって、また10くらい話すみたいな。
僕はよくキャッチボールに例えるのですが、こういう営業ってお客様と1つのボールでキャッチボールできていないんですよね。せっかく相手がボールを投げてくれているのに、キャッチしたボールを下に置き自分のボールを投げている感覚です。
そうではなくて、1つのボールでキャッチボールできているか?を意識する。「これどう思います?」と聞いて、「こう思います」と返ってくる。「だったらこれは使えますね。ちなみにこれだったらどうですか?」と聞いて、「それはこうですね」と返してもらう。
そうすることによって、お客様に同じくらいの量を話していただけるので、より意味のある時間にできます。会社のことやサービスのことをたくさん説明しているときに、最初のほうで内容について「ん?」と引っかかってしまったら、そこから先のお客様はモヤモヤしたままずっと聞かなきゃいけません。でも、会話にすれば、「いまのところはこういうことですか?」とお客様の質問を受け付けることができるので、モヤモヤがなくなります。「この話には興味がないな」とかも早い段階でわかるので、途中で軌道修正もできます。だから僕は、必ず会話になるようにしているし、メンバーにも「会話をしましょう」と言っています。
数字にも差が出ていて、会話型の商談をする人の方が、1.5倍くらい受注率が高いですね。お客様がのめり込んでくれているから、結果にも差が出るんだと思います。
水野 :自分の言いたいことをバーっと言ってしまうことありますよね。意識されているのは、会話型の商談だけでしょうか?
高橋 :ほかには、商談の事前準備フレームワークがあります。「営業活動はお客様の利益を最大化させるためのもの」という前提を置き、そこをゴールにして事前準備では4つのことを考えます。
まずは「お客様がいまよりも利益を伸ばすために必要なことを一言であらわすと何か?」を考えます。そして「これは具体的にはどういうことか?」「それをするためにはどのような意思決定が必要か?」「意思決定をするためにはどのようなハブが必要か?」という具合に4段階で考えていきます。

水野 :初回商談からですか?
高橋 :そうですね。「事前準備としてこの4つを考えてみよう」と言っています。IRがあれば読んで参考にすればいいですが、すべての会社が上場しているわけではないので、HPでも構いません。会社概要や沿革を見て、さきほどの4つを考えていきます。
実際にメンバーと一緒に行なった事前準備を例にすると、商談前の会社は商社機能と外食事業を持っている企業でした。もともと文具とかお皿の物販事業からはじまって、そこから食品も扱うようになり、その後、自社で店舗を持って外食事業をはじめたという沿革でした。
まず最初に考えるのは、「いまよりも利益を伸ばすには何が必要か?」です。僕は物販と食品と外食の3つの事業が、ちゃんとシナジーを出すことが重要だと考えました。各事業が協力することで売上を伸ばすことができますし、ムダも省けるはずです。結果として利益が増えます。
次に「事業シナジーを出すとは、具体的にはどういうことか?」を考えます。食品の事業部が何を扱っているのかというと、枝豆とか串カツとか、居酒屋向けの冷凍食品でした。であれば、卸先に対して「この串カツに合うお皿があるのですが」と提案すれば、物販と食品のシナジーが起きます。ということは、食品の卸先に対してちゃんと物販が売れているか?を商談で確認したほうが良いです。
加えて、外食事業はマーケティングが重要だと思うので、食品事業の売上について質問しようと考えました。串カツがたくさん売れているエリアがあれば、そこには「若い層が多い」という仮説がたちます。その流れで、「若い層をターゲットにした外食の店舗を出せば売上が伸びるのでは?」という問いかけは、お客様にとって良い提案になるかもしれません。食品事業を軸にして、その販売データを活用して外食事業を伸ばすとか、物販をクロスセルするとか、アリかもしれないですよね。
じゃあ今度は「そうするためにどのような意思決定が必要か?」というのを考えます。事前準備ではこういった話をどんどん積み上げていくのですが、だいたい1社あたり3〜5分くらいでやるっていう感じですね。最初は時間がかかりますけど、慣れてきたらこの時間でできるようになります。
水野 :それは資料化するんですか?
高橋 :資料には落とさないです。なぜかというと、初めて会う人に、「あなたこうですよね?」と言われたら、それが正しくてもなんだか否定したくなるじゃないですか。だから、自分用のメモとして持っておけばいいです。大事なのは、お客様の利益を伸ばすにはどうすればいいか?を、自分の頭で考えることなので。
そもそも、なぜ、自分ばかりが説明する商談になってしまうのかを考えると、その根本にはお客様に興味がないからだと思うんです。なので、この事前準備をすると、お客様のことがわかるし、もっと知りたくなります。結果的に、説明じゃなくて会話の商談になるんです。
営業としての信念
水野 :ひとりの営業として大切にしていることがあればお聞きしたいのですが、いかがでしょうか?
高橋 :そうですね。僕が営業をやっていく上での信念みたいなものでいうと、まず「良いサービスを、良い会社に届けること」です。そして、個人的な強い思いとしては、自分の子供が大人になった時に、笑顔が絶えない日本でいてほしいと考えています。
個人的な想いを実現するためにも、「お客様の利益を伸ばすにはどうするか」から考えることを大切にしています。自分が扱っているサービスがこれだから、こういう提案をしようというものではなく、「お客様の利益を伸ばすためにはこれが必要だから、こういう提案をしよう」というスタンスでいること。これはとても大事にしていますね。
水野 :先ほどの事前準備のフレームワークですよね。1点質問で、利益を伸ばすための提案をする際に、商談相手も利益について強く意識しているポジションの方であることが条件になると思います。利益を伸ばすことが指標になっていないポジションの方には、提案が刺さりにくいと思うのですが、いかがでしょうか?
高橋 :僕の結論は、刺さると思っています。利益を考える際に、どこにテーマを持ってくるかの違いだと考えているので、最終的には利益に帰結するというか。
利益を最大化するためには、売上を伸ばすか、コストを下げるか、リスクを下げるかだと考えているのですが、たとえば工場の現場の方に提案をする場合は、「コストを下げる」の一段階下にあるような「歩留まりを上げるには」をテーマにします。
そうすれば、最終的には利益向上につながっていきます。要は、利益の構造を理解することが重要だということです。何をしたら、どこにヒットするのかを理解して、提案する相手に合わせてテーマを選ぶ。それができれば、相手に刺さる提案になると思います。
水野 :なるほど。企業は利益を伸ばすために事業を行なっているので、すべてはそこにつながっていくということですね。
高橋 :そうです。たとえば、ログラスではお客様と会話するときによくこのスライドを使っています。

これは、「企業価値向上」にひもづく要素をロジックツリーにしたものですが、僕たちのようなSaaSを扱う企業の場合、サービスを導入いただいた際に「利益がどう上がるか」という部分では、成果が見えづらいと思っているんです。「情報が集まりにくい」とか「属人化している」といった現場固有の課題があって、どうしてもそれぞれの課題に目が行ってしまう。
なので、「企業価値向上」をゴールにすべてがつながっていることをちゃんとお伝えして、「情報が一元化されたらこうなりますよ」とか「属人化を解消できればここにつながっていきますね」といった話をします。これができるようになると、お客様にもログラスのサービスの価値を正しく理解していただけるので、どんどん信頼が溜まっていき、売れる営業になると思います。


