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AIの時代に、人間の声で物事を伝える意味とは|樋田代表インタビューVol.3
インタビュー

AIの時代に、人間の声で物事を伝える意味とは|樋田代表インタビューVol.3

2026.08.24

前回のふりかえり

「事業計画書ナシ」「見込み顧客ゼロ」からスタートし、経営者100人インタビューから「研修」「司会」「広報代行」と独自事業を次々と立ち上げた樋田氏。順風満帆に見えた矢先、突如訪れた「コロナ禍」という大きな危機を乗り越え、世の中は本格的なAI時代に突入していきます。

AIの時代に、人間の声で物事を伝える意味や価値はどこにあるのか

─────組織についての質問です。社員の皆様にとって、年齢や環境の変化に合わせてシフトチェンジできる環境は非常にありがたいと思いますが、一方でビジネスとして成果を出し続けることも重要だと思います。「職場環境のやさしさ」と「成果が求められるビジネスの厳しさ」を、どのように両立しているのでしょうか?

正直に言うと、両立させるのは非常に難しいと考えています。トークナビには多くのアナウンサー経験者が集まってくれます。いまでは80人ほどの会社になりました。司会サービスであれば、みんなすぐに活躍できるのですが、広報代行サービスにおいては、お客様の目的を実現することが求められます。そのため、結果がすべての世界であり、継続的な成果を求められたときに、どうしても耐えられないメンバーも出てきます。

私は、そうした厳しい現実をハッキリと伝えることこそ本当のやさしさだと考えていますが、結果として辞めてしまうメンバーもいました。アナウンサーが活躍できる環境をつくりたいという想いはもちろんありますが、ビジネスとしてしっかりと成長させなければ事業を拡大することはできません。

では、どうすればそれらを両立できるのか?ということなのですが、「これをやれば大丈夫」という明確なゴールイメージは残念ながらまだ持てていません。でも、どうにかしてより良い状態に近づけるように、いろいろと試行錯誤をしているところです。

─────試行錯誤の具体例があれば教えてください。

昨年の10月からやっていることは、採用基準の大幅な変更です。「元アナウンサーであること」という採用条件を見直し、「伝えることを仕事にしたい方」に変更しました。プロ意識を持って仕事に向き合い続ける集団をつくろうと考えたからです。

採用基準をガラッと変えた結果、元新聞記者の方や、元ホテルの広報担当の方などが応募をしてくれるようになりました。現時点では採用基準の変更をとてもポジティブに捉えていて、組織としてもうまく回り始めている感覚があります。「プロ意識を持って目的にコミットできる人材かどうか」は、採用時に最も大切にしていきたいと考えています。

─────事業についてもお聞きします。研修・司会・広報代行に続くサービスとして、注力しているものはございますか?

新しく広告の領域を開拓しています。アナウンサーはどうしても「司会の人」というイメージが強いと思うのですが、そのイメージを広げていきたいと考えているからです。

いま世の中には、商品を持って魅力的にプレゼンするPRの仕事が大量にあります。いつもならモデルの方やタレントの方が登場することが多いですが、「プロのアナウンサーが商品をプレゼンする動画はどうでしょう?」と広告代理店さんに営業をかけているところです。

企業の動画案件やコマーシャルのリポーターとして、トークナビのメンバーのアサインが始まっています。イベントの司会だけでなく「動画もつくることができて広告にも使える」というアウトプットにすることで、他のアナウンスプロダクションと大きな差別化になっています。

既存のアナウンスプロダクションは「A社のビールの案件に出ている間は、B社はNG」といったルールが非常に強いのですが、私たちはそういったルールが緩やかな領域を探しています。就職説明会の司会など、BtoBの現場へどんどん仕事の幅を広げていくつもりです。

─────ありがとうございます。ガラリと話題を変え、AIについてお聞きしたいです。技術が進化し、AIが自動でナレーションを読み上げる時代になりました。その中で、人間が、生の声で物事を伝える意味や価値はどこにあるとお考えでしょうか?

単発のナレーションの案件などは、おっしゃる通りAIを使えば済むので、人間の仕事としては減っていくと考えています。ただでさえ、仕事の数に対してフリーアナウンサーの数が多すぎると思っているので、そこにAIが入ってくるわけですから、ただ原稿を読み上げるだけのアナウンサーの需要は少なくなっていくはずです。自宅にマイクを設置して、「宅録可能です」とSNSで発信し、個人で仕事を得ようとがんばっている方もいらっしゃいますが、そうした案件は減る一方なので、相当がんばらないと生き残ることは難しいのではないでしょうか。

私が大切に思っているのは、「自分たちが時代とともに変わるしかない」という心構えを持つことです。過去の私も含めて、多くのフリーアナウンサーは事務所に所属した段階で安心しがちだと思います。昔ながらの「プロダクションに所属して案件を待つ」というスタイルに疑問を持っていません。でも、時代は大きく変わっています。

だからこそ私たちは、ただ原稿を読むだけではない、AIには真似ができない「考える力が求められる業務」や「ストーリーを紡ぎ出す業務」「人の感情に触れる部分」をサービスにしてきました。広報代行などは、そのわかりやすい例だと思います。

─────AIの出す答えと、人間が介在する広報代行サービスとの決定的な違いは何だと思いますか?

AIと人間の決定的な違いは、「心」や「気持ち」の領域だと思います。AIは統計的に適切だと思われる答えをすぐに出してくれますが、人の気持ちを汲み取ることは、まだできません。

私たちの『女子アナ広報室』は、単なる作業としての広報代行ではなく、社長の伴走者になるというスタイルをとっています。社長の想いや意図を深く汲み取り、企画力や取材力を活かして魅力を引き出し、伴走して引っ張っていくスタイルです。社長個人や企業独自の切り口を見つけるという頭脳の部分こそが、人間にしかできない価値の出し方だと思います。

何があったのかという事実を丁寧にまとめたプレスリリースではなく、私たちは社長の人生やお人柄からヒアリングし、より魅力的なストーリーを描いてプロフィールシートを作成します。それを持って、メディアに直接取材交渉に行きます。

さらに、自社で新規開拓を重ねてきたテレビ、新聞、雑誌、各業界紙といったマスメディアとの独自のパイプがありますから、社長の意図を汲んで、適したメディアの方々をお繋ぎすることができます。社長はただ、メディアの前でご自身の想いを語るだけで良いんです。そうしてメディアに露出することで、社長の想いが世の中に伝わり、たとえば採用の文脈であればミスマッチを防ぐことができます。

企業の広報代行をするときは、メンバー個人が担当企業と深く向き合いますが、定例のチームミーティングで各自の状況を共有するようにしています。そうすることで、他のメンバーの取り組みを自分の仕事に活かすことができますし、人間だから出せる価値を磨いていくことができます。このプロセスは、AIには真似できないと思っています。

─────今後、トークナビとして挑戦していきたい事業の展望について教えてください。

社長が前進できるよう支える存在になることです。

最近、会社のミッションを刷新したんです。『伝える力を通して人と企業を結ぶ架け橋となり、挑戦者の新しい機会を切り拓きます』という内容にしました。

私たちが想定している挑戦者とは、主に社長のことです。社長業というのは、挑戦すればするほど多くの壁に直面する仕事です。そして、壁を乗り越えられる人もいれば、諦めてしまう人もいます。困難に直面した瞬間に、私たちが一番の伴走者になり、社長の挑戦をしっかり支えていけるようになりたいという想いがあります。まずは、このミッションを体現できるように、愚直にがんばっていこうと思っています。

具体的な事業アイデアとしては、元アナウンサーであるトークナビメンバーのビジネススキルをさらに高めていくことで、50代など年齢を重ねた段階で「女性の社外取締役」としてお客様のビジネスを支援するサービスを考えています。

アナウンサー経験だけでは社長の近くで働くことは難しいですが、私たちが持っている「声で伝えるための専門技術」をビジネスの現場に当てはめることができれば、社長のスピーチトレーナーや社外取締役として伴走者になれるのではないかと思うんです。

そのためには、ビジネスや事業についての知識を深めることが重要ですし、経営についても勉強する必要があると思います。簡単ではないですが、コツコツと努力を重ねて豊富な知識や専門性を身につけた人こそが、これからの時代を生き残っていけるのではないでしょうか。これからも、トークナビのメンバーと共に、人間だからこそできる価値を磨き続け、社長が前進できるよう支える存在であり続けたいと思っています。

─────最後の質問です。ご自身が思い描いている今後のキャリアについても教えてください。

私には子どもが2人いますが、日々の採用面接の中で「子育てがあるので仕事を辞めざるを得なかった」「働き方を変えないと仕事と育児の両立ができないため転職活動をしている」といった女性の声に、たくさん触れてきました。

自分自身も子育てを経験し、仕事との両立の大変さは身に染みてわかっているつもりです。だからこそ、会社としても女性が働きやすい設計を大切にしています。その上で、「伝える力」という生きていく上でも大切なスキルを、次の世代にしっかり残していきたいと考えています。

以前、社会貢献活動の一環で、小学生を対象にニュースを伝えるための発声教室を開いたことがありました。また、コロナ禍の時期には、オンラインのプログラミング教室とのコラボで、「技術はあるけれど、それを人前でうまくプレゼンできない」という子どもたちのために話し方レッスンを展開したこともあります。

自分の考えを他者にちゃんと伝えられることは、その人の人生にとって大きなプラスになるはずです。アナウンス技術は伝える力を伸ばしてくれますから、個人的にはそのきっかけを多くの人に提供していきたいと考えています。

伝える力はセンスだと思っている方が多いかもしれません。でも、後天的に身につけられるものです。お作法や理論を学び、トレーニングを繰り返すことで、手に入れられる技術であり、華道や茶道のように探求していく「道」のようなものだと思います。

自宅では、0歳の子どもに向かって、発声の練習として「あ・い・う・え・お」と声をかけています。まずは良い発声を耳で学んでもらおうと思っています。小学3年生の上の子は、音読と読解力トレーニングをしています。これは「内容を理解した上で指定した時間内に読むことができるか」に挑戦するものですが、ストップウォッチを片手にゲーム感覚で取り組んでいます。目標タイムをクリアしてよろこんでいる姿を見るのは微笑ましいです。

いまの時代、AIはとても優秀でいろいろな答えをくれますが、私の心の中にある本当の気持ちを誰かに伝えてくれるわけではありません。どれだけ技術が進化しても、結局は自分の声で、自分の気持ちを伝えるしかないと思います。仕事でも、プライベートでも、大切な「伝える力」をもっともっと世の中に広めていきたいと思います。

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インタビューを終えて

山内基

山内基

株式会社ディプコア ThinkD編集長

インタビュー後、私の中に強く印象付けられたのは、樋田代表の圧倒的なパワフルさと柔軟さでした。 お話を聞く限り、樋田代表の経営スタイルには「あらかじめ正解が用意されている」という前提がありませんでした。事業計画なしでの起業、コロナ禍での方向転換、そして元アナウンサー組織からプロのビジネス集団への大胆な採用基準の変更。常に全力で実行に移し、状況を見ながらチューニングを繰り返しています。 では、「理想に固執せず、自分たちを変えていく」という選択ができるのはなぜなのでしょうか。それはきっと、全国行脚のアナウンサー試験で苦労を重ね、プロになった後も圧倒的な先輩との差に打ちのめされ、それでもどうにかして前を向き続けた挫折と復活の経験と無関係ではないはずです。 言葉を選ばずに言えば、樋田代表は局アナ時代、圧倒的な実力を持つ先輩方を前に、ご自身の限界や葛藤を人一倍味わってきたのかもしれません。しかし、だからこそたくましさとしなやかさが身につき、光が当たり切らないフリーアナウンサーの痛みに寄り添う仕組みが生まれたのでしょう。 変化の激しいこの時代に、樋田代表の数々のエピソードは「自らを変え続けろ」という強いメッセージに思えました。