はじめに
新卒で医療機器の開発エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後IT業界へ転身。「自社のサービスを育てるプロジェクトマネージャーになる」という目標を掲げ、楽天グループや日本コカ・コーラといった名だたる事業会社で実績を残してきた永井様。
順風満帆なエリートキャリアのようでありながらも、その根底には「常に自分の市場価値を高め続けたい」という向上心と、何よりも「モノづくりが好きだ」というエンジニアとしての純粋な気持ちがありました。
外資系特有の制約や、日々大きく変化するAI時代の到来を目の当たりにし、40代・6回目の転職という転機で永井様が選んだのは、三菱商事グループのバックボーンを持ち、AI開発の最前線に立つエムシーディースリー(旧インダストリー・ワン※)でした。
「条件の良さよりも、どんなことが起こるかというワクワク感に惹かれた」と語る永井様に、これまでの多彩なキャリアの変遷やdepcoa AGENTのコンサルタントとの出会い、そしてAIによって劇的に変わりつつある「現代のプロジェクトマネジメント」のリアルな現在地について、お話を伺いました。
※株式会社インダストリー・ワン、エムシーデジタル株式会社、株式会社MCデータプラスの3社が合併し、2025年7月1日にエムシーディースリー株式会社が誕生。
転職前の状況
まずはこれまでのご経歴についてうかがいます。現職が7社目ということで、これまでの歩みやプロジェクトマネージャー(以下「PM」)を目指すことになった背景なども教えてください。
新卒では医療機器メーカーに開発エンジニアとして入社し、ハードウェアの設計や試作、組み込みソフトウェアの開発に携わっていました。モノづくりは非常に楽しかったのですが、次第に「自社製品や自社サービスを自分の手で育てたい」という想いが強くなっていきました。そこで、「ITの世界で経験を積み、ゆくゆくは事業会社でPMをやる」という目標を立て、30歳のときにIT業界へ転職しました。
いくつかの会社でクライアントへの提案から関わるPMとしての経験を積み、2020年1月に念願だった事業会社のPMとして楽天グループに入社しました。入社直後からコロナ禍によるリモートワークが始まり、ECの需要が爆発的に伸びたタイミングでした。
「10年先を見据えて設計したインフラを、わずか2年で食いつぶしそう」というくらい需要に勢いがありました。受注データを扱う部署のPMとしてジョインした私は、非常にエキサイティングで刺激的なチャレンジを数多く経験することができました。
「事業会社でPMをやる」という目標を達成した私は、次の目標について考えていました。その際、これまでに働いたことがない外資系企業という環境について興味を持ったんです。そこで、次の職場として日本コカ・コーラを選びました。
日本コカ・コーラでの仕事内容や外資系企業で働いた感想について教えてください。
PMと保守運用エンジニアを兼務していて、自動販売機の通信データサーバや『Coke ON』アプリに関わる裏側の仕組みづくりなど、幅広い業務を任せてもらうことができました。仕事自体はとても充実していましたが、グローバル企業ならではの壁にも直面しました。

具体的には、米国本社からのトップダウンの指示や厳格な予算制約がある環境などです。それが外資系企業の強さの一面であることは理解しつつも、自分たちで意思決定できる範囲が限られます。やりたいことがあったとしてもグローバル組織としての役割分担が明確であるからこそ、現場レベルでドラスティックに意思決定できない難しさがあり、個人的にはもどかしさを感じていました。2023年から2024年にかけての話です。
その時期は、ちょうど生成AIが市民権を得ていったタイミングですね。
そうなんです。そして、それが転職のきっかけになります。というのも、私自身はもともと自分でコードを書くエンジニアでした。そのため、生成AIが急速に広がっていく様子を見て、「設計書作成やコーディングの多くの部分が、近い将来AIに置き換わっていくだろう」と感じていました。
そのとき、「このまま外資系企業で5年、10年と過ごしたとき、自分のビジネスパーソンとしての市場価値はどうなるだろう?」と考えました。外資系企業は判断がドライですし、一度決まれば実行スピードが早いです。そのため、いつ私の仕事がなくなってもおかしくありません。仮にこのままの環境で5年を過ごしたとして、いきなり「AIで代替することになったから」と言われたら、次の環境を見つけるのは難しいのではないか。そう思ったんです。
AIが加速するこれからの時代を生き抜くために、「市場価値をさらに高めていける環境」を探し、自分なりに試行錯誤していきたいと考えました。
目標としていた事業会社のPMを経験し、興味を持った外資系企業で働くこともできた。だからこそ、もう一度改めて市場価値を磨くという自分のキャリアの軸に立ち返り、前向きに挑戦していこうと考えたんです。
転職活動について
新たな市場価値を求めて転職活動を始められた際、まずはどのようなアクションからスタートしましたか?
これまでの転職と同様に、まずはスカウトサイトに登録し、職務経歴書を更新しました。エンジニアという私の経歴上、ありがたいことに多くの転職エージェントや企業からたくさんのアプローチをいただきました。
転職先を検討する際に決めていた自分のルールは、「開発の現場、モノづくりの場から離れない」ということです。私のようなキャリアだと、高待遇な「ITコンサルタント」としての求人も多く届きます。コンサルタントとして優秀な方が超上流の要件定義に集中する働き方を否定するつもりはまったくありませんが、私自身の純粋な想いとして、やっぱり自分自身がモノづくりに触れられる環境で働き続けたいと考えていました。
サラリーの多寡よりも、ご自身が前向きな気持ちで現場に関われるかが重要だったということですね。
そうですね。妻からも「楽しく働けることが最優先だよね」と言われていましたし、前職でも、いまでも、サラリー的な不満はありませんでした。ちなみに、前職の福利厚生なども含めると、今回の転職で待遇的には若干下がった部分があります。でも、私にとっては完全に許容範囲内でした。
モノづくりへのこだわりを満たす求人の紹介も多かったと思います。ディプコアのコンサルタントからの提案に興味を持っていただけたのはなぜでしょうか?
他社からの提案と明確に違ったのが、インダストリー・ワン(現 エムシーディースリー)という「三菱商事グループのバックボーンがあるAI開発企業」の求人だった点です。
これまで商社の世界には縁がありませんでしたが、三菱商事のようなビジネスの幅が広いグループであれば、ほかにはない面白い案件に関わることができるのではないかと魅力を感じました。
それに、コンサルタントの矢野さんのサポートも他とは違っていました。大量の情報を送ってくるわけではなく、まずは私とじっくり会話を重ねて、自分では言語化できなかった抽象的なキャリアの希望を丁寧に引き出し、具体化してくれたんです。また、求人企業についてもとても詳しく、「どういうタイプの方が働いているのか」といった社員のキャラクターについてもいろいろと教えてもらいました。
矢野とのやり取りの中で、特に印象に残っているものはありますか?
印象的だったのは、ハードスキルや条件面ではなく、現場の方々との相性や職場の雰囲気といったソフト面を推してくれたことです。矢野さんからは「インダストリー・ワンのメンバーの雰囲気は、永井さんに合うと思いますよ」と言われて驚いたことを覚えています。
それまでの転職活動では、スキルや経験がマッチしているかという話ばかりでした。それが普通だと思っていたので、矢野さんとのやり取りは非常に新鮮に感じました。結果的に、「永井さんに合うと思います」という言葉は、入社後にその通りだったと実感することになります。
他に転職先の候補はあったのでしょうか?
実はもう1社、フィンテック系の自社サービスを持つ企業から内定をいただいていました。仕事内容もリアルに想像しやすく、ストックオプションの提示もあり、条件的には魅力がありました。
一方、インダストリー・ワンは三菱商事グループという巨大なフィールドがある反面、どんな案件を担当することになるのか、具体的な中身が見えないところがありました。しかし、だからこそ、これまでの延長線上ではない、新しいチャレンジと刺激がある環境だと思いました。子供っぽいかもしれませんが、なんだかワクワクしたんですよね(笑)。

2社を比較して、インダストリー・ワンを選んだ決め手はなんだったのでしょう?
最後に背中を強烈に押してくれたのは、矢野さんが仕掛けたサプライズでした。私が2社で迷っていることを知った矢野さんが、選考でお会いしたインダストリー・ワンのメンバーの皆さんからメッセージを集めてくださったんです。「永井さん、待ってますよ!」とか「一緒にがんばりましょうね」という内容でした。
後から聞いて驚いたのは、メッセージを集めたのはお休みの日だったということです。大事なプライベートの時間にも関わらず、私のためにわざわざメッセージを考えてくれた。エンジニアとして優秀なだけでなく、あたたかい配慮や他者への気くばりが自然にできる人たちが集まっている会社なんだと思いましたし、私もその一員になりたいと強く思いました。
現在の状況
2025年6月の入社からまもなく1年が経ちます。「合うと思いますよ」と言われて、実際はいかがでしたか?
矢野さんに言われていた通りで、とてもスムーズに組織に溶け込むことができました。これまでに何度も転職してきたので、それなりに新しい環境に馴染むことができるタイプだと思っていましたが、いまの会社は驚くほどはやく溶け込むことができました。
何よりも、周りにいるメンバーと「モノづくりにおける価値観」がすごく似ていると感じています。
モノづくりにおける価値観?
はい。仕事をするときの見るべきポイントや大事にしている配慮のラインが、すごく近しいと感じています。たとえば、「ここにこだわることは全体のクオリティにとっては無駄だから、触れなくていいよね」だったり、「ここは肝になる部分だからもう少し深掘りしよう」だったり、こだわる箇所が似ているので、変に気をつかわなくてもコミュニケーションがスムーズに進んでいきます。バッチリと噛み合っている感覚がすごくあるんです。
入社してみて、「前職で感じていたもどかしさやすれ違いの正体は、この価値観にズレがあったからだな」ということに初めて気がつきました。仕事を進めるときの意思決定プロセスや業務のルールが良いか悪いかではなく、私の価値観と合うか合わないかだったんです。
なるほど。話が変わりますが、業務において三菱商事グループならではの手応えはありましたか?
想像以上でした。グループ内外問わず、非常に幅広い案件に携わることができているのですが、最近では大きなAI開発案件を受注することができました。
詳細はお伝えできないものの、いまの会社にいなければ携われないような規模の大きなプロジェクトです。入社から1年も経たないうちに、自分が最もチャレンジしたかった最先端のAI開発にPMとして携わる機会を得て、期待以上のチャンスをいただけて本当にうれしく思っています。
転職時のキーワードのひとつであった「AI」ですが、実際に現場ではどのように活用されていますか?また、PMの仕事にどのような変化をもたらしているでしょうか?
少し前の繁忙期に、お客様と要件を詰めながら、自分でも生成AIにコードを書いてもらい、システムをつくるという経験をしました。そのときに、仕事の景色がガラリと変わるような実感を持ちました。
以前、ITベンダーでプログラマをしていたときは、「自分があと5人くらいいたら、もっと開発スピードが上がるのに」と思ったことがありました。それがいま、AIに指示を出すことで、自分と同レベルのプログラマを数人手に入れたような状況をつくることができています。
これまでのPMのセオリーだと、「PM自身が現場の細かいタスクに手を出すべきではない」という考え方が大多数でした。人間のメンバーを相手にそれをやってしまうと、プロジェクト全体をマネジメントするというPMの本質的な役割がおそろかになってしまうからです。
しかし、相手がAIであれば話が変わってきます。「ここをちょっと変えて、3パターンつくって試してみて」と手元で指示を出せば、数秒でアウトプットが返ってきます。メンバーにタスクを依頼し、期日を切ってスケジュールを管理するという、アウトプットに直結しない調整の手間がなくなり、自己完結できる範囲が爆発的に広くなりました。
これは、いくら本を読んでもわからなかったことで、実際に自分でAIを使ってプロジェクトを動かしてみて初めてつかんだ、プロジェクトマネジメントの新しい手応えだと思います。
ご自身の世界が広がったことを、とてもたのしそうにお話しになりますね。
そうですね。モノづくりが好きなので、動くものができあがってお客様に触っていただけるだけでうれしいです。最近ではグループ会社のお客様から「これは他でも使えそうだから、あの部署の人とも話してみて」と言っていただき、仕事が次の仕事につながっていくことも経験しました。社内調整に時間を使っていたこれまでよりも、仕事のおもしろさを実感できる機会が格段に増えたと感じています。
今後についてですが、チャレンジしたいことや思い描いているキャリアの展望についても教えてください。
大きくふたつあります。まずは、ギリギリまで現場でモノづくりに関わっていたいです。できることならあと15年とか、20年とか、現場で必要とされるエンジニアであり続けたいと思っています。マネジメントに興味がないわけではありませんが、やはり「モノづくりが好き」という純粋な気持ちに正直でいたいと思っています。
もうひとつは、「人を育てたい」ということです。いまの職場には私と同じようなバックボーンを持って働いているPMがまだ多くありません。だからこそ、「PMをやってみたい」という人を増やし、育てていきたいと考えています。
個人的な話ですが、学生時代に塾の先生をしていたことがあります。その頃から、人に教えることが好きでした。医療機器メーカーの開発エンジニアとしてキャリアをスタートしてから、多くの上司や先輩からたくさんのことを教わってきました。私にとっては関わってくださった全員がモノづくりの師匠であり、師匠から受けたたくさんの教えを自分なりに消化して、いまの私のベースができています。
今度は、私が誰かの師匠になりたいと思っています。この会社でプロジェクトマネジメントを成功させるためのノウハウを形にして、次の世代にちゃんと引き継いでいく。それが私がこの会社で取り組みたい新しいチャレンジだと考えています。

最後に
「キャリアに悩んでいる」や「転職を検討している」など、新しい一歩を踏み出そうとしている方にメッセージがあればお願いします。
私は現職が7社目で、これまでに6回の転職を経験しました。振り返ってみると、「いまの環境から逃げたい」といったネガティブな理由で転職したことは一度もありませんでした。過去の転職はいずれも「こういうことをしたい」「こうなりたい」というポジティブで前向きな気持ちで決断してきました。
一般的に転職回数が多いと、「ちょっとどうなの」と懸念される風潮があると思います。それ自体は否定しませんが、私の場合は経験してきたすべての環境で新しいスキルを身につけ、ステップアップしてきたという自負があります。「チャレンジしなければよかった」と後悔したことは、一度もありません。
周りからはよく「楽観的だね」と言われます。自分ではどちらかというと悲観的な人間だと思っているのですが、現状に悲観的だからこそ、成長するために楽観的に振る舞っているうちに、本当にそうなったのかもしれません。
もし、何か手に入れたいものや「絶対に叶えたい!」と強く思える目標があるのなら、ポジティブな気持ちで「どうすればそれを実現できるか」を考えてみてほしいです。いまの職場で上司の方に希望をぶつけてみてもいいですし、転職をして環境を変えることもいいと思います。
「これを実現したい」と強く願い、前向きに行動すれば、大体のものは手に入るのではないでしょうか。ネガティブな不満を解消するためではなく、自分の可能性を広げるためのアクションとして、ぜひ一歩を踏み出してみてほしいと思います。
(本記事は、2026年5月に実施したインタビュー時点の内容であり、現在とは一部異なる場合があります)



