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取材ノート2026.08.28

「食の未来」を救うアグリテック投資の地殻変動。日本発スタートアップが挑む2つのアプローチ。

「食の未来」を救うアグリテック投資の地殻変動。日本発スタートアップが挑む2つのアプローチ。
山内基

山内基

株式会社ディプコア ThinkD編集長

2003年、企業の採用広告のコピーライターとしてキャリアをスタート。日本経済を牽引する大企業から数々の上場企業、設立されたばかりの社員数名の企業まで、担当した企業の規模はさまざま。そしてIT・流通・小売・不動産・建築・介護・自治体など業種もさまざま。幅広い企業の採用広告を経験。広告制作以外にも、集客マーケティングや業務改善にも従事。2024年8月、株式会社ディプコアでWebメディア「ThinkD」の立ち上げに参画。インタビュー、撮影、記事執筆、編集などを担当。

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みなさんは「農業」に対して、どのようなイメージを持っているでしょうか?かつての私は「どこか古くて、守るべき伝統的な産業」という印象を抱いていました。

・後継者不足で農家が減少し、高齢化が進んでいる
・食料自給率が下がり続けており、将来に不安がある
・国の補助金や支援が必要な、どちらかといえば「守り」の領域

このように、どこか他人事のように捉えていたのです。しかし、ThinkDで様々な起業家にインタビューを行い、国内外の動向をインプットする中で、そのイメージは180度覆りました。

いま、世界の農業の現場では、「攻めの投資」が爆発的に進んでいます。 世界人口が100億人に達しようとする現代、いかに効率良く、ムダを削り、持続可能な形で食料を届けるか。この仮説を証明するかのように、アグリテック・フードテック領域に対する世界の投資の重心が、この数年で大きく変化しているのです。


データが示す「アグリフードテック投資」の現在地

農業・食のテック領域における世界的な調査機関「AgFunder」のレポートを見ると、投資対象の重心が「生産(川上)→ 流通(川中)→ 消費(川下)」の間でダイナミックにシフトしていることが分かります。




⚫︎2021年の傾向

パンデミックの影響もあり、ネットスーパーや配送といった川下の分野に投資が集中。世界の投資総額はこのときがピークで、約517億ドル(約7.7兆円)。デリバリーバブルも伴って、史上最高額を記録。総額のうち約70%が川下の分野に投資された。


⚫︎2024年の傾向

デリバリーバブルが弾け、投資総額はピーク時のおよそ3分の1である約160億ドル(約2.4兆円)に。しかし、そのうちの約51%が川上である生産の分野に投資された。派手な消費サービスにお金が注がれたフェーズを経て、現在はより本質的な「持続可能な生産(バイオ、農機テックなど)」に投資が集まっている。




派手な消費サービスにお金が注がれたフェーズを経て、現在はより本質的な「持続可能な生産現場のアップデート」に世界のマネーが集まっています。

日本に目を戻すと、生産現場が直面しているのは単なる効率化の課題だけではありません。「こだわりを持って作ったものが適切に評価され、正当な対価を受け取れるか」という生産者の尊厳の問題、そして流通過程で生産量の30%が失われるという深刻なフードロス問題です。

これらは遠い国の話ではなく、私たちの毎日の食卓に直結する課題です。ThinkDの取材を通じて、この巨大な課題に全く異なる2つのアプローチで挑む、日本発スタートアップの可能性と希望が見えてきました。


【アプローチ① 個のエンパワーメント】
『食べチョク』ビビッドガーデンが挑む、生産者の尊厳と誇りの可視化

「こだわりの農作物を作るのですが、大量生産できないので既存の流通に乗せることができない。結果として、経済的なリターンを得ることができない。そういう農家さんがたくさんいるんです」

これは、産直プラットフォーム『食べチョク』を運営するビビッドガーデンの秋元代表がThinkDのインタビューで語ってくれた中で、特に印象に残った言葉です。

日本の多くの小規模農家が直面しているのは、自分のこだわりや技術が価格に反映されにくい、匿名性の高い既存の流通構造です。プロとしてどれだけ良いものを作っても報われないという構造に対し、ビビッドガーデンはテクノロジーで切り込んでいます。

同社が提供する『食べチョク』の本質は、単なるECサービスではありません。「生産者へのエールを可視化する仕組み」です。


・消費者が「誰から買うか」を選べる
・生産者が「自ら価格を決める」ことで、自分の仕事に誇りを持てる
・消費者からの感謝の声が直接届き、それが次への動力源になる


効率化を追い求める中で薄まってしまった、農業の「人間臭い体温が感じられるやり取り」をテクノロジーで再構築する。小規模農家を持続可能にするための同社の挑戦には、数値化が難しい「情熱」を正当なビジネスの対価へと変換しようとする、泥臭い試行錯誤とハードシングスが詰まっていました。


【アプローチ② マクロの仕組み化】
アグリペディアが挑む、データドリブンな食のインフラ再定義

ビビッドガーデンが「個の力」に焦点を当てているのに対し、食料問題というマクロな巨大課題に対して、全く別の角度からアプローチするスタートアップがあります。それが、「圧倒的な仕組み化」を掲げるアグリペディアです。

世界人口が急増する中、「どこで、何が、どれくらい必要とされているか」という需給の不透明さこそが、生産現場の疲弊と、30%ものフードロスを生む元凶になっています。

アグリペディアはこの「わからない」というブラックボックス問題に、大規模農家向けの流通プラットフォームという形で切り込んでいます。これまで農家の経験と勘に頼っていた需給状況を可視化し、農業をデータドリブンな産業へとアップデートしようとしているのです。

代表の石田さんへのインタビューから見えてきたのは、徹底されたリアルな現場視点でした。


・複雑に入り組んだ流通経路をデジタルで整理する
・需要を正確に予測し、ムダのない生産を可能にする
・大規模ゆえに生まれる「供給の余剰」を柔軟な対応という新たな「価値」に変える


アグリペディアが見据えているのは、単なる業務効率化の先にある「食のインフラそのものの再定義」でした。

余談ですが、代表の石田さんは「東大入学式の翌日から大学に通うのをやめ、生活のために始めたアルバイトで農業の世界に出会った」という強烈なキャリアの持ち主。この異色の原体験こそが、現場に深く潜り込む同社の泥臭い強さの源泉なのだと深く納得させられました。


情緒と論理の「両輪」が揃って初めて、産業は持続可能になる

ビビッドガーデンが「生産者の情緒と誇り」を次世代につなぐものであるなら、アグリペディアは次世代のために「論理と仕組み」を整えるアプローチだと言えます。

どちらか一方が正しいわけではありません。「個の尊厳を守る情緒」と「全体を最適化する論理」。この全く異なる両輪のスタートアップが日本から同時多発的に生まれ、切磋琢磨していること自体が、日本の農業、ひいては世界の食料問題に対する現実的で力強い打ち手になるはずです。

「守るべき産業」から「テクノロジーと情熱でアップデートする最前線の産業」へ。彼らの挑戦を追うことは、これからの持続可能なビジネスや社会のあり方を考える上で、私たちに多くのヒントを与えてくれると思います。



(文:ThinkD編集長 山内 基)

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