ThinkDの取材を通じて、様々な領域のスタートアップ企業を訪ねる中で、時折「まったく別々の場所に転がっていた問いと答えが、ある瞬間カチッとつながる」という不思議な体験をすることがあります。
先日、いくつかの医療系スタートアップを取材した際に、ひとつの大きな問題意識が芽生えました。 それは、「日本の社会保障制度は本当に素晴らしい仕組みであると同時に、いま深刻な制度疲労を起こしている」という厳然たる事実です。
制度が設計された当時から人口構造は激変し、もはや現役世代の負担だけでシステムを支えきれなくなりつつあります。しかし、この巨大な国家インフラをアップデートするには、膨大な時間と調整コストが必要です。
正直に白状すれば、これまで私はこの大きすぎる複雑な問題を前にして、「いつか頭の良い誰かが解決してくれるもの」と、どこか他人事のように捉えていました。しかしその後、全く異なるジャンルのスタートアップを取材したことで、その「他人事感」に変化が生まれたのです。
「医療の現場」から「日常のランニングアプリ」へ。視点が変わった瞬間
医療系スタートアップの取材を終えた私は、後日ある「ランニングアプリ」を展開するスタートアップを取材していました。
その会社が持つ強みは、医療従事者向けのシステムではなく、一般のユーザーが「どうすれば行動を変え、楽しく運動を継続できるか」という、徹底的な行動変容のノウハウとデータの蓄積でした。
一見すると、国家の医療制度という「マクロな課題」と、個人のダイエットや運動の習慣化という「ミクロなサービス」は、まったく無関係のように思えます。しかし、彼らの話を聞いているうちに、ふと一つの仮説が頭をよぎったのです。
「生活者が健康であろうとする日々の自発的な行動は、めぐりめぐって未来の社会保障費を減らす、本質的なアプローチ(予防医療)なのではないか?」
たとえば、将来の健康リスクが低い(=運動習慣が定着している)社員が多い企業に対し、自治体が税制面でメリットを与えるような未来の仕組みがあっても不思議ではありません。
もちろん、これを社会実装するには法的な壁やスコアリングの基準など、多くの課題が存在します。しかし、「医療費が逼迫している(課題)」という点と、「人が運動を継続する仕組み(解決策)」という、一見バラバラだった2つの点が、頭の中でカチッと結びついた瞬間でした。
取材から見えた、これからの「予防医療」と「行動変容」の可能性
これまで「予防医療」や「健康寿命の延伸」という言葉は、お題目としては理解できても、どこか綺麗事に聞こえてしまう側面がありました。なぜなら、「健康のために毎日走りましょう」と言われて実践できる人は、最初から健康意識の高い一握りの人に限られていたからです。
しかし、現在のスタートアップが持つ「ゲーミフィケーション」や「コミュニティの力」を使った行動変容のテクノロジーは、これまで運動に関心のなかった層をも自然と動かす力を持っています。
⚫︎医療・行政のアプローチ:
壊れたものを治す、制度として支える(限界を迎えつつある)
⚫︎民間ヘルスケアのアプローチ:
壊れないように楽しく導く、行動を習慣化する(これからの伸び代)
この両者が交差する場所にこそ、社会保障制度の疲労を根本から食い止める、現実的なイノベーションの種が隠されているのだと思います。
ビジネスの解像度を上げる「コネクティング・ドッツ」の思考法
スティーブ・ジョブズの有名な言葉に「コネクティング・ドッツ(点と点をつなぐ)」があります。
今回、私が体験した気づきもまさにそれでした。メディアの編集という仕事は、単に目の前にある情報を右から左へ集めて右から左へ流す仕事ではありません。
一見、交わることのなさそうな「別々のドメイン(今回であれば医療とスポーツ)の抽象度を上げ、その裏に流れる共通の因果関係を見つけ出すこと」。それこそが、メディアにおける「編集」の役割であり、新規事業を企画するビジネスパーソンにとっても極めて重要な思考法なのだと思います。
一つの業界だけを凝視していても見つからなかった答えが、隣の業界の当たり前の中にあるかもしれません。ThinkDの取材ノートでは、これからもそんな「ビジネスの現場で起きている点と点の交差点」をお届けしていきたいと思います。
(文:ThinkD編集長 山内 基)






