ThinkD
挑むのは、およそ8.9兆円のブルーオーシャン|神谷COOインタビューVol.2

挑むのは、およそ8.9兆円のブルーオーシャン|神谷COOインタビューVol.2

2026.09.17

前回のふりかえり

オーストラリア国立大学で公共政策を学び、東京大学在学中に国政政党の政策スタッフとしてマニフェスト作成などに携わった神谷勇太氏。「民間を知らずに国家は語れない」という想いからKPMGコンサルティングへ入社し、大手企業の事業戦略や国家制度の検証支援などで実績を重ねます。 その後、学生時代からの仲間であった髙橋氏・石川氏とともにLobbyAIに参画。官民の情報格差解消に向けた挑戦が本格的に始動します。

官民の情報格差を解消する。挑むのはおよそ8.9兆円規模と想定されるブルーオーシャン

─────改めて、LobbyAIがどのような事業を展開しているのか、全体像を教えていただけますか?

私たちLobbyAIは『データアクセスに、非対称性がない世界へ』というビジョンを掲げています。テクノロジーを活用して、民間企業と政治や行政をなめらかにつなぐ。そういう世界を実現したいと考えています。

裏を返せば、民間企業と政治や行政がうまく情報連携できていない現状があるということです。私たちはそこに問題意識を持っており、連携できていない状況を改善することで世の中に価値を提供していきたいと考えています。

具体的な事業内容は大きく3つです。まずは主たる事業である「SaaS型の業務アプリケーション事業」です。私たちは独自に開発したAIクローリングエンジンを使い、全国の自治体や中央省庁が発信する膨大な公共情報をリアルタイムで自動収集し、データベース化しています。私たちのお客様はこのデータベースを活用し、AIを使った高度なリサーチや新着情報のリアルタイム通知受領、さらには自社の業務フローへの組み込みまでを一括で行うことができます。

次に、収集したデータ基盤を活用した「プラットフォーム事業」です。これは私たちのデータ収集エンジンや保有する公共情報を、お客様個別の用途やニーズに合わせて専用のダッシュボードなどの形式でカスタマイズ提供するものです。

最後は、「渉外公共ソリューション事業」です。データベースを提供しても、お客様側で「そもそも自治体や国への営業経験がない」「データはあるが、いつ・誰に・どのように連絡すべきかわからない」という課題に直面するケースが多くあります。そういう企業に対し、行政向けにアプローチする際のアドバイスや実行代行などをしています。

─────主な顧客層としては、どのような企業が多いのでしょうか?

メインとなるのは「政府や自治体に対して、直接または間接的に自社プロダクトやサービスを提供している企業」です。具体的には、ITの大手SIerやゼネコンなどの建設会社、建設コンサルタントなどが挙げられます。加えて、事業を展開する上で政府の許認可が必要であったり、規制が強く関わってくる金融や保険、派遣といった業界の大手企業も多くいらっしゃいます。

さらに、日本政府のGDP約650兆円のうち、政府支出や公共調達は120兆円〜130兆円と非常に大きなウェイトを占めています。そのため、新規事業の一環として公共市場を重要テーマに掲げる大手企業の経営企画部門や、そうした企業を支援するコンサルティングファームなども主要な顧客層に含まれます。

─────ありがとうございます。そもそもの部分で「データアクセスに非対称性がある」というのはどのような状況なのでしょうか?

たとえば、アメリカでは、日本の10〜20倍規模の巨大なロビイング(※)マーケットがあると言われています。

(※)ロビイング:企業や団体が自社の事業や規制改革のために、政府・自治体・政治家などに働きかける活動のこと。

働きかけを行う過程で人間関係の癒着などさまざまな問題が存在しますが、官と民の接続自体は非常に活発です。

一方、日本においては、大企業・中小企業を問わず、「たまたま政治家や行政担当者と繋がりがある人」だけが、行政の情報や規制の緩和、制度上のベネフィットにアクセスできるという歪な状況が存在しています。

行政の情報は本来、すべての国民や企業に等しく活用されるよう公開情報としてオープンにされているはずです。しかし、情報を適切に集約することが現状では難しく、また構造化されていないことから、誰もその存在を知らず、結果として活用されていないという課題が生じています。

─────公共の情報は開示されているものの、広く活用されているとは言い難いということですね。その結果、どのようなデメリットが発生しているのでしょうか?

「情報の非対称性」が生み出すデメリットのひとつが、公的入札の倍率です。全国平均の入札倍率は、わずか1.1倍程度にとどまっています。この数字が意味するのは、行政側が「入札によって最も質が高いプロダクトやサービスを民間から調達したい」と考えたとしても、事実上は「入札に手を挙げた1社をそのまま採用せざるを得ない」ということです。

これは行政にとっても、民間企業にとっても、ひいては国民にとっても、みんなにとって良くない不健全な状態だと思います。

─────「入札倍率1.1倍」は驚きの数字ですね。

まさにそこが本質的な課題だと思います。「情報は公開されている」というのが政府や自治体のスタンスであり、実際にホームページなどに公開されています。しかし、民間企業からすれば、「そもそも探したい情報がどこにあるのかわかりにくい」「情報を得られたとしても、いつ、誰に連絡すればいいかわからない」といった大きな壁が存在します。

国の政策検討サイクルにおいては、入札が公示された段階で動き出しても間に合わないのが現実です。公示されてから慌てて情報を見に行っても落札が難しい。あるいは、入札に参加できたとしても、事前に行政側と対話してRFP(※)の作成段階から関わっていた特定のベンダーが圧倒的に優位に立つ構造になっています。

(※)RFP:Request for Proposalの略で、日本語では「提案依頼書」のこと。システム開発や公共事業などを発注する自治体側が、受注側である民間企業に対して目的や要件、予算、スケジュールなどを提示し、具体的な提案を求めるために作成する文書のことを指す。

LobbyAIでは顧客向けの資料で対行政向けの営業習熟度を定義しているのですが、公示された入札をただ待っている「入札待ち営業」は、レベル1にも届かない「レベル0」という評価です。

─────「レベル0」ですか…

はい。厳しい言い方になるかもしれませんが、反響を待っているだけでは商売とは言えないと思います。相手から声がかかるのを待つ「御用聞き営業」を超えて、民間企業同士の取引と同じように「商売相手である行政がいまどのような課題を抱えているのか」を自ら探しに行き、課題解決のための提案を行うアプローチが必要です。

しかし、膨大な行政情報の中から自社に関連する課題を見つけ出すのは現在の環境では難しすぎます。とはいえ、そのままであれば「入札倍率1.1倍」のような不健全な状態のままです。このジレンマを打破する手段として、私たちのサービスを活用いただきたいと考えています。

─────民間同士では当たり前の課題解決型営業を、対行政でも可能にするということですね。ちなみにですが、この構想を実現するためのサービスのプロトタイプはいつ頃完成したのでしょうか?

2025年2月です。そのタイミングで最初の資金調達をしたのですが、出資の条件がプロトタイプの完成でした。

そもそも、全国で1,700超ある自治体のホームページから、公開情報をリアルタイムで収集することが果たして可能なのかという懸念がありました。そのため、まずは人口数千人規模の町をターゲットにし、その自治体ホームページに掲載されている全データをAIエンジンで自動収集し、構造化されたデータベースとして格納する実験を行いました。データ量が少ない自治体であっても、収集や格納に成功すれば、あとはその仕組みをスケールさせれば良いと考えたのです。

そして、「この技術を使えば全自治体の情報を収集・構造化できる」という再現性を確認できました。最初は自治体の議事録情報の取得からスタートし、そこから政策検討の動き、各種計画書、予算書のデータ取得へと段階的に対象を広げていきました。

これが2025年2月の出来事です。そして、この実績が認められ、最初の資金調達につながりました。

─────市場のポテンシャルについても伺いたいです。LobbyAIがターゲットとしている市場規模をどのように捉えていますか?

マクロ経済的な観点から、官民の情報格差によって生じている社会的な機会損失の規模を算定したところ、あくまでも私たちが出した数字ではありますが、その市場規模は約8.9兆円に達すると試算しています。

経済学には「交通渋滞が存在することで、物流や人の移動が遅れ、その分経済的な損失が発生している」という考え方があります。官民の情報格差もまったく同じです。膨大な人員を張り付けて手動で行政ホームページを監視させたり、入札倍率が1.1倍にとどまることで生じる非効率をマクロに換算した試算値になります。

国内における直接的なプロダクトの売上ポテンシャルだけでも、約4.4兆円規模を見込んでいます。これは単なる公的入札市場だけでなく、日本に数多く存在する「デジタル化されていない各種許認可手続き」「環境アセスメント」「インフラ・保安事業」など、行政文書のやり取りに莫大な時間と労力を投下している領域すべてのDXを支援するソリューションだからです。

膨大な作業時間を圧縮することで、企業がより高付加価値な行政向け新規事業を創出できたり、営業活動にリソースを集中できる世界を目指しています。

─────およそ8.9兆円規模の非効率を解消するビジネスなのですね。巨大な市場において、競合となるプレイヤーはいるのでしょうか?

一部のシンクタンクや調査会社が、自治体や中央省庁の公開情報に対して手動あるいはスポットで受託調査を行うケースはありますが、私たちのように自動化・SaaS化されたプロダクトとして展開している競合は存在しない認識です。そういう意味では、新しい市場を自分たちで定義し、生み出していると言えると思います。

行政関連の部署をお持ちのお客様にサービスをお見せすると、「こんなプロダクトがずっと欲しかった」「これがあれば業務が劇的に変わる」と言っていただけることがほとんどです。

─────逆に、これまで続いてきた行政や議会のやり方に対して、公開情報とはいえ自動で収集し可視化することにネガティブな反応はないのでしょうか?

ネガティブな反応はまったくなく、むしろ自治体や国からも大いに歓迎されています

入札倍率が1.1倍であることは、自治体や中央省庁にとっても深刻な悩みです。「新しい施策や事業に取り組みたいが、提案・参入してくれる民間企業が集まらない」という問題を抱えているからです。

行政側も自治体側も、民間企業からのアプローチを待つだけになってしまっており、民間企業も含めて双方が「待ち」の状態であるために、何も前に進まないという悪循環に陥っていました

さらに従来の自治体向け営業では、どこからか購入した見当違いのリストをもとに、電話でローラー作戦をかけていたという話を聞いたことがあります。本来とは異なる事業課に営業電話がかかってくるため、対応にもリソースが取られてしまいますし、現場も困惑してしまいます。私たちのデータベースでは、各自治体の事業課ごとの個別連絡先まで構造化して掲載しています。

「個別の連絡先を掲載して、自治体に怒られないのか」と質問されることがありますが、自治体の担当部署にとっては、自分たちの業務や課題に直接関係のある提案や問い合わせであれば大歓迎なのです。正しい情報に基づいて、正しい窓口に、スムーズにアプローチが行く仕組みをつくることで、自治体からすると良質な事業者を調達できる可能性が高まりますし、民間企業としては健全な競争を通じてプロダクトやサービスを磨くことができます。双方にプラスをもたらすマーケットを構築できると考えています。

─────確かに、自治体側も正当なプロセスで集まった多数の応募から最適な事業者を選定できた方が、住民に対する説明責任を果たせますね。では次に、現在の組織規模や導入実績などの数字について、差し支えない範囲で教えていただけますか?

組織規模については、業務委託メンバーも含めると現在20名超です。資本金は、資金調達を経て1億7,050万円となっています。

導入実績ですが、有料で導入いただいているエンタープライズ企業を中心に、約40社ほどになります。誰もが知るような大手保険会社や大手SIer、複数のコンサルティングファームなど、各業界を代表する大手企業をメインにサービスをご利用いただいています。

─────公開情報をクローリングしてデータベース化するというアプローチ自体は、ともすれば技術力のある他の会社でも模倣できるように思えてしまいます。LobbyAIならではの「真の競合優位性や独自性」はどこにあるとお考えですか?

大きく2つあると考えています。1つ目は「圧倒的な高度クローリング技術と高いデータ抽出精度」です。

私たちは、AI領域で著名なPKSHA Technology傘下の「PKSHA Technology Capital」と東京大学の松尾豊教授の研究室関連機関である株式会社松尾研究所傘下のファンドが共同設立・運営している「PKSHA Algorithm Fund」などから、2026年3月に出資を受けています。厳格な技術評価を行う彼らから出資を受けていること自体が、私たちの高い技術力を客観的に証明していると考えています。

実際に、大手企業の中にも「同様の仕組みを社内で構築しようと試みたが、途中で断念した」というケースが多々あると聞いています。単一のWebサイトから情報を収集する程度であればルールベースで可能です。しかし、全国に1,700以上あるフォーマットも仕様もバラバラな自治体や省庁の動的Webサイトから、エラーを起こさず安定してデータをリアルタイムで抽出し、単一のデータテーブルに格納し続けることは極めて難易度が高く、世界的に見ても実現できる企業はほとんどないと思います。

2つ目の強みは、「元国会議員や秘書、元行政職員らのドメイン知識に基づくデータ構造化とオペレーション設計」です。LobbyAIには、CEOの髙橋やCTOの石川、そして私以外にも、政治や行政に携わったバックグラウンドを持つメンバーが多数います。

仮に、将来的に高度なAIモデルなどを使ってデータ収集ができるようになったとしても、「取得したデータをどのような構造で保持し、現場のどのようなワークフローに落とし込むのが最適か」というノウハウは、行政実務を熟知した人間でなければ設計不可能だと思います。国政政党や省庁から何十人も引き抜いてAIエンジニアと組ませない限り模倣が難しい知見だからです。

このように、技術とドメイン知識という2つの参入障壁を築けていると思います。

─────なるほど。自治体や省庁のWebサイトは更新頻度も高く、通知なく構造が変わることもあり、目視や手作業での監視は非常に難易度が高そうですね。

そうですね。これまでは自治体向けに営業したい企業の担当者の方が、数百のWebサイトをブックマークし、毎朝手動でひとつずつ確認するといった壮絶な運用をしていました。私たちはそれを完全に自動化し、差分抽出とリアルタイム通知まで行っています。

また、追加になりますが、行政独特の「文脈」や「言い回し」を正しく解釈できることも強みかもしれません。

─────具体的にはどういうことでしょうか?

たとえば、議会や審議会で「前向きに検討します」という発言があったとします。それが首長や大臣の発言なのか、イチ担当者の回答なのか、あるいはどのような文書に記載されたかによって、意味合いが大きく異なります。

首長や大臣が「いつまでに」など明確な年度と一緒に発言したり、大方針で定めているKPIと絡めて発言した場合は「確実に実行される」と判断できます。また、審議会の20名の構成員の中で「誰がどのような立ち位置で発言したか」を見ることで政策の真意を見抜くことができます。私たちが持つこうした高度な解釈ノウハウをシステムやカスタマーサクセスの業務に落とし込んでいます

─────2025年1月の会社設立から非常に順風満帆な印象を持ちますが、現在に至るまでにどのような泥臭い苦労がありましたか?

当然、いろいろな苦労がありました。たとえば、初期の頃は単なるデータベースとして販売していたため、お客様から「一度検索して満足したら使わなくなってしまう」という評価をいただき解約の壁に直面しました。

そこから、リアルタイム通知の精度向上やお客様の日常業務への組み込み支援、カスタマーサクセス体制の強化を徹底していき、継続して使っていただけるプロダクトへと進化させていきました。

また、資金調達の局面でも苦労がありました。私たちの株主になってくださっているVCは行政や公共領域への深い理解をお持ちですが、世の中のVCがすべてそうだとは限りません。中には「toC向けアプリ」などのビジネスモデルに慣れているため、「行政向けの情報データベースがなぜ巨大な事業になり得るのか」を理解していただくのが難しいこともありました。

プロダクト開発も大変でした。誰もつくったことがないプロダクトなので、CEOの髙橋やCTOの石川、COOの私、営業本部長などが集まる週次の企画会議では、激しい議論が交わされました。元政治家や政策経験者が多い組織でもあるので、みんな弁が立つと言いますか、妥協のない議論が日常的に行われていたと思います。

─────そうした苦労や激しい議論を経て、プロダクトが磨かれてきたということですね。3つ目の事業として挙げられていた「渉外公共ソリューション事業」も非常に需要が高そうな印象を持ちました。

おっしゃる通りで、非常に強いニーズをいただいています。「公共ビジネスに参入したいが、専門部署を立ち上げたばかりで何から手をつければいいかわからない」という初期段階の相談から、「すでに案件はあるが、自社リソースだけでは回らないためアプローチの一部を代行して欲しい」という実行段階のニーズまで、包括的に支援できる体制を整えています。

行政システムの標準化や統合には、まだ莫大な時間がかかる見込みです。自治体ごとのフォーマットの違いや複雑な意思決定プロセスは今後も存在し続けると思います。だからこそ、私たちのデータベースとコンサルティングを組み合わせたアプローチが、官民の架け橋として大きな価値を発揮すると考えています。

この記事をシェア

次回予告

およそ8.9兆円の非効率を解消する画期的なプロダクトで、大手企業を中心に導入を進めるLobbyAI。最終章となるVol.3では、同社が描く「海外展開」や「世界市場」へのロードマップを独占公開。 さらに、神谷COOの経営思想やBtoBtoGのインフラになった先に目指す日本の未来像についても語っていただきます。 次回、『目指すはBtoBtoGのインフラ。世界進出も視野に入れた事業戦略』をお楽しみに!