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およそ8.9兆円分の非効率を解消する。LobbyAI神谷勇太COOが描く、BtoBtoGの未来。

およそ8.9兆円分の非効率を解消する。LobbyAI神谷勇太COOが描く、BtoBtoGの未来。

2026.09.28 公開

本日のゲスト

LobbyAI株式会社 専務執行役COO 神谷 勇太

設立:2025年

事業内容:政策渉外や自治体営業をAIでスマートに支援するプラットフォームの開発・提供など

推薦理由

足立 康史

足立 康史

参議院議員(元経済産業省 経産官僚)

神谷さんは、かつて私の政策スタッフとして、政策立案やマニフェストの作成を支えてくれました。制度を理解し、データに基づいて具体策を組み立てる。その力を、今は民間の立場から官民連携の改革に注いでいます。 行政の情報が必要な企業に届かなければ、優れた技術も提案も生かされず、不利益を被るのは国民です。LobbyAIが挑む情報の非対称性の解消は、公共市場に健全な競争を生み出すための大事な仕事です。政策とビジネスの両方が分かる神谷さんに、透明で公正な経済社会を構築してほしいと思っています。

※本記事は、公開済みの内容(Vol.1/Vol.2/Vol.3)を一本にまとめた完全版です。

はじめに

巨大な官公庁・自治体市場において、民間企業と行政をテクノロジーでつなぐ「BtoBtoG」の領域。今回取材を行ったLobbyAI株式会社の試算によれば、その規模はおよそ9兆円とも言われている。

非常に大きな市場でありながらも、参入障壁の高さや情報の複雑さから手をつけるプレイヤーが極端に少なく、手つかずのブルーオーシャンが広がるこの領域に、圧倒的な技術力と深いドメイン知識で切り込んでいるスタートアップがLobbyAI株式会社だ。

同社は独自のAIクローリングエンジンを駆使し、全国の自治体や省庁が発信する膨大な公共情報をリアルタイムでデータベース化。これまで非効率だった企業の行政アプローチを劇的に変革している。

2025年2月のプロトタイプ開発から破竹の勢いで成長を続け、すでに大手SIerや大手コンサルティングファームなど約40社への導入実績を誇る同社。その成長をCOOとして牽引しているのが、当時23歳で参画した神谷氏だ。オーストラリア国立大学で公共政策を学び、KPMGコンサルティングで政策立案・検証支援や経営戦略策定などに携わった経験を持つ神谷氏に、同社の事業優位性や描く未来について、ThinkD単独でじっくりお話しをうかがった。

民間を知らずに国家は語れない。東大、KPMGを経て、スタートアップへ

─────最初に神谷さんのご経歴について伺えればと思います。ご出身やこれまでの歩みについて教えてください。

関西にルーツがある家庭に生まれ、私自身は大阪府や奈良県で子ども時代を過ごしました。12歳まで関西にいたのですが、その後、親の仕事の都合でオーストラリアのパースに移住し、2012年から2020年まで滞在していました。

2020年に高校を卒業し、その後はパースを離れて首都のキャンベラにあるオーストラリア国立大学に進学しました。途中で1年間の東京大学への編入留学を経て、就職以降は東京を拠点に活動しています。

─────高校卒業のタイミングが2020年ということは、ちょうどコロナ禍の直撃を受けた時期ですね。

そうなんです。オーストラリアの高校を卒業した後、本当はイギリスの大学に進学したいと考えていました。特に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で経済学や公共政策について学びたいと考えていました。それに、試験に合格できるかは別として、あわよくばオックスフォード大学なども視野に入れていたんです。

しかし、2020年当時は、先進国の中でもイギリスの感染状況は特に深刻で、現地での受験どころではない状況でした。そのため、方針を切り替え、オーストラリア国内で経済学や公共政策の分野においてトップクラスの評価を受けていたオーストラリア国立大学に進学することに決めました。

─────オーストラリア国立大学は、いわゆる「PPE(政治・哲学・経済)」の分野で世界的に有名だと聞きました。この分野に興味を持たれたのはどのような背景があるのでしょうか?

早い段階で実践的な知識を得たかったからです。そもそも「PPE」はオックスフォード大学発祥の学問で、非常に特徴的なカリキュラムを持っています。通常であれば大学院レベルまで時間をかけなければ得られない教養を、凝縮して提供するプログラムを持っています。

「政治家や記者、ビジネスパーソンとして早く社会で活躍したい」という意欲的な若者のニーズにマッチし、政治家や大臣などを多く輩出している一方で、「内容が浅いのではないか」という指摘もあり、賛否両論が存在しています。

私自身は研究者を目指す気持ちはなく、知識や教養を得ること以上に「学んだ内容を実際の社会にいかに実装し、世の中にどのような影響を与えるか」に強い関心がありました。そのため、大学院に進学しなくても早期に実用的な教育が受けられるPPE専攻を選びました。

─────高校生の段階から、将来のキャリアから逆算して進路を選ばれていたのですね。

私が特別なのではなく、オーストラリアやイギリスの教育システム自体がそうした仕組みになっている側面もあると思います。向こうの高校は選択科目制になっていて、高校生の段階で将来の目標を明確にしておかなければ大学で進学できる学部が極めて制限されてしまうんです。早い段階から、将来のキャリアを主体的に考えざるを得ないルールになっているのだと思います。

とはいえ、将来のことだけを考えて学生時代を過ごしたわけではありません。オーストラリア国立大学があるキャンベラは、政府機関や軍の関係者、あとは学生くらいしか住んでいないちょっと特殊な街です。学生は役所やシンクタンク、大学の研究室、コンサルティングファームなどで積極的にインターンを経験しながら将来のキャリアを模索します。

かといってキャリアのことだけを考えているのではなく、思い返せば豊かな時間が流れていたと思います。フレックスな働き方やワークライフバランスが尊重される土壌がありますし、オーストラリアワインに代表されるようなお酒の文化もあります。大学の敷地内にはパブがありますし、向こうは18歳から飲酒が可能なので、夜な夜な友人たちと政治や社会について議論をかわしていました。当時の友人たちとはいまでも深く繋がっています。

─────日本の学生生活とは少し雰囲気が違うように感じます。ちなみに、政治や経済という領域にフォーカスされたのはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

家庭環境の影響が強いのだと思います。私の祖父は関西で造船関係の事業をしていたのですが、ビジネスをする上で政治や国際情勢、経済の動きを把握することが非常に重要でした。そのため、政治や経済の話題が日常的に出てくる家庭でしたし、日本と韓国、日本と中国といった外交の歴史についてもよく話題になっていました。

歴史好きの祖父母の影響もあり、小学生の頃に興味本位で歴史能力検定2級の試験を受けるほど、歴史や社会の成り立ちに強い関心を持っていました。その関心が、次第に人文や公共政策の分野へと広がっていったのだと思います。

両親からは「理系に進んで将来はエンジニアになれば?」と言われていて、高校に入ったばかりの頃は専門科目として物理学にのめり込んでいました。でも、副次的に履修していた経済学を学ぶ中で、両者の本質的な類似性に気づいたんです。

─────物理学と経済学の類似性とは何なのでしょうか?

物理学が「物質の運動や関係性を方程式で表す学問」だとすると、マクロ経済学や計量経済学は「人間同士の取引や社会の動きを法則化して方程式で表す学問」だと思います。この類似性に気づいたときに、「経済学は思っていた以上に理系的なアプローチだな」と強い関心を持ちました。

また、経済学的には「こういう政策を取ればGDPに影響を与える」といったことが数値や理論で明確に存在しています。にもかかわらず、民主主義国家の選挙においては、国民のニーズやその時々の世の中の感情によって学問的な合理性とは異なる政策が選ばれることがあります。

私にとっては学問的な合理性とは異なる現象が起きること自体がとても興味深く、それ以来、政治や公共政策の領域にどっぷりとはまっていきました。

─────オーストラリア国立大学で学び、学生時代の後半は東京大学へ編入留学されていますね。この選択にはどのような背景があったのでしょうか?

オーストラリア国立大学と東京大学は単位を相互に認定し合える協定を結んでいて、休学することなく単位を取得できる仕組みがありました。東京大学以外にも、一橋大学や京都大学、慶應義塾大学など、日本の色々な大学が協定を結んでいました。

いくつかの選択肢がある中で、実家や昔からの友人がいる関西に戻るか関東に出るかで迷っていたんです。家族に相談したところ、慶應義塾の高校に通っていた祖父から「政治や公共政策に興味があり、選べる環境にあるのなら東京大学に行ってみたらどうか」とアドバイスをもらい、最終的に東京大学に留学することにしました。

─────東京大学在学中には政策スタッフとしての活動をスタートされたと聞きました。きっかけは何だったのでしょうか?

実は以前から、ある国政政党の学生部に所属していました。当時はコロナ禍でしたし、オーストラリアにいたので、オンラインで会議に参加していました。その後、東京大学に留学した際に、当時の政調会長だった方から「一緒にやろう」とお声がけをいただいたことが政策スタッフになったきっかけです。

当時のその政党はベンチャーのような雰囲気で、議員と学生部の学生が気兼ねなくLINEでメッセージを送りあったりするなど、風通しが良かったことも魅力に感じていました。

私に声をかけてくださった方は経産省出身で、政策実務に非常に長けておられました。ちょうどコロナ禍で日本の四半期GDPが年率換算で大きく落ち込んだ局面であり、「経済政策の立て直しが不可欠だ」ということで、マクロ経済の専門知識を持つ私に声をかけてくださったようでした。

─────具体的には、どのような政策立案に関わられたのですか?

2021年の衆院選、それに2022年の参院選におけるマニフェストの作成に携わりました。中心となったのは、経済政策と社会保障制度改革です。

日本は政府の財政規模は大きいものの、現役世代から社会保険料を徴収し、所得や資産の有無にかかわらず高齢者へ給付する構造になっているので、財政規模の割に再分配効果が米国よりも低いというデータが出ていました。「税金をどこから集め、誰に配るか」の合理性を突き詰める議論を重ねました。また、ウクライナ情勢に伴う小麦価格の高騰を受けた食品の消費税減税案など、具体的な法案のドラフト作成にも携わりました。

─────大学卒業後の進路として、そのまま政治の世界に進む選択肢もあったかと思います。実際は民間企業に就職されていますが、それはなぜでしょうか?

民間での実務経験がないまま、国の政治や国家について語ることに対して、自分の中で強い違和感があったからです。そのため、まずは民間企業の構造やビジネスの実像を身をもって経験する必要があると考えました。

東京大学の法学部界隈では、官僚や外資系金融、コンサルティングファームなどが主なキャリアの選択肢になります。私自身も大学時代にヘッジファンドで半年ほどインターンを経験し、金融の実務をかじりました。ただ、就職の際には「より事業会社の実務支援に近い領域で経験を積みたい」と考え、KPMGコンサルティングを選択しました。

公共と民間の接点となる領域に魅力を感じていましたし、管理会計の構築や事業戦略の策定といったビジネスの基礎体力を身につけることができると思いました。現実的な市場価値や報酬の水準も考慮し、合理的な判断だったのではないかと思っています。

─────KPMGコンサルティングでは、どのような案件を担当されていたのでしょうか?

入社直後は戦略部門に配属され、モビリティ関連の事業戦略づくりなどのプロジェクトを担当しました。その後、エネルギー領域と経営戦略が交差する専門部署に配属になりました。

その専門部署では、少し専門的な話になってしまうのですが、日本の電力制度において国家機関が運営する「容量市場」について、海外動向の調査や制度導入、それに総括的な検証を行い、約定の仕組みや価格形成の見直しに向けた提言プロジェクトに携わったりしていました。

ほかにも、国内エネルギー大手による海外クリーンエネルギー企業の買収に向けたターゲット候補の洗い出しや、従業員数万人規模の大手電力グループの10年先を見据えたグループ再編戦略づくりなど、難易度の高い案件にも携わることができました。

─────充実したキャリアのスタートですね。一方で、LobbyAIとはどのようなつながりがあったのでしょうか?

少し時間軸が巻き戻るのですが、LobbyAI代表の髙橋やCTOの石川とは、学生時代からつながりがありました。2人とも同時期に私と同じ国政政党の学生部に所属していたんです。髙橋は関東の責任者で、私は全国の政策責任者でした。そのため、以前から学生部で一緒に仕事をする間柄でした。

当時から髙橋とは「政治や行政の領域でビジネスができたらおもしろそうだよね」という話をしていました。なかでも、「行政情報の膨大なデータベースが存在すれば大きな価値になる」という話は5年以上前から私たちの中で話題になっていました。

ただその時は技術的・資金的なハードルが高く、アイデアの域を出ていませんでした。

─────代表の髙橋さんやCTOの石川さんとは、もともとお知り合いだったということですね。

そうです。もともと知り合いだった2人を私がつないだという流れになります。髙橋の中にはなんとなくの事業アイデアがあったのですが、実現が難しかった。しかし、AIの登場をきっかけに髙橋がアクションを起こし始めました。

「技術的な課題はAIで解決できるのではないか?」というのが髙橋の仮説だったのですが、そこで思い出したのが石川の存在です。石川は北陸先端科学技術大学院大学(※1)で10年以上機械学習の研究をしていて、Kaggle Competitions Expert(※2)の資格も持っています。

(※1)北陸先端科学技術大学院大学(JAIST:Japan Advanced Institute of Science and Technology):1990年に石川県能美市に設立された国立大学院大学。学部を持たず、独自のキャンパスと教育研究組織を有し、先端科学技術分野における国際水準の研究と教育を行っている。

(※2)Kaggle Competitions Expert:世界最大級のデータサイエンスプラットフォーム「Kaggle」のコンペティション部門において、銅・銀・金メダルのいずれかを合計2つ以上獲得することで与えられる称号。


髙橋から「起業を考えていて、優秀なエンジニアを探している」という話があり、知り合いだった石川を紹介したところ、意気投合した2人が2025年1月にLobbyAIを創業しました。当時私はKPMGに在籍しながら、外部のオブザーバーとして毎週のように事業計画の壁打ちやアドバイスをしていました。

─────外部のアドバイザー的な立ち位置からフルコミットの参画へと心が動いた要因は何だったのでしょうか?

創業メンバーである髙橋と石川、そして私を含めた3人の役割が、奇跡的な相互補完的だったことが最大の要因だと思います。

代表の髙橋は、強力なビジョンと発信力を持っています。彼はもともと大手ハウスメーカーのマーケティング担当だったので、自分たちがどのポジションで何を言うべきかを考えることがうまいです。また、ビジョナリーなタイプでもあるので、魅力的なビジョンを描くこともできます。アドバイザーとして動いている間に何人かを髙橋に紹介しましたが、みんな「この人と一緒に仕事がしたい」と言いました。彼は人を惹きつけるカリスマ性のようなものを備えたCEOなのだと思います。

一方、CTOの石川は極めてドライかつシビアです。「この意思決定における機会損失は何か」「会社の効率化をいかに達成するか」といったことを冷静に見極めるタイプの技術者です。

そして私は、コンサルティングファームで培ったビジネスの知見やエンタープライズ企業との交渉力を持っています。事業計画の策定や資金調達実務の経験もありますし、バックオフィスや実務面を強固にする役割を担うことができます。この3人が揃えば、他の会社がたどり着くことができない遠い場所まで事業を推進できると思いました。

当初、事業化のハードルだった技術的な課題は石川の加入で解消されました。資金的な課題を解消するために2025年後半から資金調達活動をはじめ、その実務に外部アドバイザーとして関わっていました。資金調達の目処が立ったタイミングで正式に打診を受け、2026年4月1日付でCOOとしてフルコミットで参画することを決めました。

官民の情報格差を解消する。挑むのはおよそ8.9兆円規模と想定されるブルーオーシャン

─────改めて、LobbyAIがどのような事業を展開しているのか、全体像を教えていただけますか?

私たちLobbyAIは『データアクセスに、非対称性がない世界へ』というビジョンを掲げています。テクノロジーを活用して、民間企業と政治や行政をなめらかにつなぐ。そういう世界を実現したいと考えています。

裏を返せば、民間企業と政治や行政がうまく情報連携できていない現状があるということです。私たちはそこに問題意識を持っており、連携できていない状況を改善することで世の中に価値を提供していきたいと考えています。

具体的な事業内容は大きく3つです。まずは主たる事業である「SaaS型の業務アプリケーション事業」です。私たちは独自に開発したAIクローリングエンジンを使い、全国の自治体や中央省庁が発信する膨大な公共情報をリアルタイムで自動収集し、データベース化しています。私たちのお客様はこのデータベースを活用し、AIを使った高度なリサーチや新着情報のリアルタイム通知受領、さらには自社の業務フローへの組み込みまでを一括で行うことができます。

次に、収集したデータ基盤を活用した「プラットフォーム事業」です。これは私たちのデータ収集エンジンや保有する公共情報を、お客様個別の用途やニーズに合わせて専用のダッシュボードなどの形式でカスタマイズ提供するものです。

最後は、「渉外公共ソリューション事業」です。データベースを提供しても、お客様側で「そもそも自治体や国への営業経験がない」「データはあるが、いつ・誰に・どのように連絡すべきかわからない」という課題に直面するケースが多くあります。そういう企業に対し、行政向けにアプローチする際のアドバイスや実行代行などをしています。

─────主な顧客層としては、どのような企業が多いのでしょうか?

メインとなるのは「政府や自治体に対して、直接または間接的に自社プロダクトやサービスを提供している企業」です。具体的には、ITの大手SIerやゼネコンなどの建設会社、建設コンサルタントなどが挙げられます。加えて、事業を展開する上で政府の許認可が必要であったり、規制が強く関わってくる金融や保険、派遣といった業界の大手企業も多くいらっしゃいます。

さらに、日本政府のGDP約650兆円のうち、政府支出や公共調達は120兆円〜130兆円と非常に大きなウェイトを占めています。そのため、新規事業の一環として公共市場を重要テーマに掲げる大手企業の経営企画部門や、そうした企業を支援するコンサルティングファームなども主要な顧客層に含まれます。

─────ありがとうございます。そもそもの部分で「データアクセスに非対称性がある」というのはどのような状況なのでしょうか?

たとえば、アメリカでは、日本の10〜20倍規模の巨大なロビイング(※)マーケットがあると言われています。

(※)ロビイング:企業や団体が自社の事業や規制改革のために、政府・自治体・政治家などに働きかける活動のこと。

働きかけを行う過程で人間関係の癒着などさまざまな問題が存在しますが、官と民の接続自体は非常に活発です。

一方、日本においては、大企業・中小企業を問わず、「たまたま政治家や行政担当者と繋がりがある人」だけが、行政の情報や規制の緩和、制度上のベネフィットにアクセスできるという歪な状況が存在しています。

行政の情報は本来、すべての国民や企業に等しく活用されるよう公開情報としてオープンにされているはずです。しかし、情報を適切に集約することが現状では難しく、また構造化されていないことから、誰もその存在を知らず、結果として活用されていないという課題が生じています。

─────公共の情報は開示されているものの、広く活用されているとは言い難いということですね。その結果、どのようなデメリットが発生しているのでしょうか?

「情報の非対称性」が生み出すデメリットのひとつが、公的入札の倍率です。全国平均の入札倍率は、わずか1.1倍程度にとどまっています。この数字が意味するのは、行政側が「入札によって最も質が高いプロダクトやサービスを民間から調達したい」と考えたとしても、事実上は「入札に手を挙げた1社をそのまま採用せざるを得ない」ということです。

これは行政にとっても、民間企業にとっても、ひいては国民にとっても、みんなにとって良くない不健全な状態だと思います。

─────「入札倍率1.1倍」は驚きの数字ですね。

まさにそこが本質的な課題だと思います。「情報は公開されている」というのが政府や自治体のスタンスであり、実際にホームページなどに公開されています。しかし、民間企業からすれば、「そもそも探したい情報がどこにあるのかわかりにくい」「情報を得られたとしても、いつ、誰に連絡すればいいかわからない」といった大きな壁が存在します。

国の政策検討サイクルにおいては、入札が公示された段階で動き出しても間に合わないのが現実です。公示されてから慌てて情報を見に行っても落札が難しい。あるいは、入札に参加できたとしても、事前に行政側と対話してRFP(※)の作成段階から関わっていた特定のベンダーが圧倒的に優位に立つ構造になっています。

(※)RFP:Request for Proposalの略で、日本語では「提案依頼書」のこと。システム開発や公共事業などを発注する自治体側が、受注側である民間企業に対して目的や要件、予算、スケジュールなどを提示し、具体的な提案を求めるために作成する文書のことを指す。

LobbyAIでは顧客向けの資料で対行政向けの営業習熟度を定義しているのですが、公示された入札をただ待っている「入札待ち営業」は、レベル1にも届かない「レベル0」という評価です。

─────「レベル0」ですか…

はい。厳しい言い方になるかもしれませんが、反響を待っているだけでは商売とは言えないと思います。相手から声がかかるのを待つ「御用聞き営業」を超えて、民間企業同士の取引と同じように「商売相手である行政がいまどのような課題を抱えているのか」を自ら探しに行き、課題解決のための提案を行うアプローチが必要です。

しかし、膨大な行政情報の中から自社に関連する課題を見つけ出すのは現在の環境では難しすぎます。とはいえ、そのままであれば「入札倍率1.1倍」のような不健全な状態のままです。このジレンマを打破する手段として、私たちのサービスを活用いただきたいと考えています。

─────民間同士では当たり前の課題解決型営業を、対行政でも可能にするということですね。ちなみにですが、この構想を実現するためのサービスのプロトタイプはいつ頃完成したのでしょうか?

2025年2月です。そのタイミングで最初の資金調達をしたのですが、出資の条件がプロトタイプの完成でした。

そもそも、全国で1,700超ある自治体のホームページから、公開情報をリアルタイムで収集することが果たして可能なのかという懸念がありました。そのため、まずは人口数千人規模の町をターゲットにし、その自治体ホームページに掲載されている全データをAIエンジンで自動収集し、構造化されたデータベースとして格納する実験を行いました。データ量が少ない自治体であっても、収集や格納に成功すれば、あとはその仕組みをスケールさせれば良いと考えたのです。

そして、「この技術を使えば全自治体の情報を収集・構造化できる」という再現性を確認できました。最初は自治体の議事録情報の取得からスタートし、そこから政策検討の動き、各種計画書、予算書のデータ取得へと段階的に対象を広げていきました。

これが2025年2月の出来事です。そして、この実績が認められ、最初の資金調達につながりました。

─────市場のポテンシャルについても伺いたいです。LobbyAIがターゲットとしている市場規模をどのように捉えていますか?

マクロ経済的な観点から、官民の情報格差によって生じている社会的な機会損失の規模を算定したところ、あくまでも私たちが出した数字ではありますが、その市場規模は約8.9兆円に達すると試算しています。

経済学には「交通渋滞が存在することで、物流や人の移動が遅れ、その分経済的な損失が発生している」という考え方があります。官民の情報格差もまったく同じです。膨大な人員を張り付けて手動で行政ホームページを監視させたり、入札倍率が1.1倍にとどまることで生じる非効率をマクロに換算した試算値になります。

国内における直接的なプロダクトの売上ポテンシャルだけでも、約4.4兆円規模を見込んでいます。これは単なる公的入札市場だけでなく、日本に数多く存在する「デジタル化されていない各種許認可手続き」「環境アセスメント」「インフラ・保安事業」など、行政文書のやり取りに莫大な時間と労力を投下している領域すべてのDXを支援するソリューションだからです。

膨大な作業時間を圧縮することで、企業がより高付加価値な行政向け新規事業を創出できたり、営業活動にリソースを集中できる世界を目指しています。

─────およそ8.9兆円規模の非効率を解消するビジネスなのですね。巨大な市場において、競合となるプレイヤーはいるのでしょうか?

一部のシンクタンクや調査会社が、自治体や中央省庁の公開情報に対して手動あるいはスポットで受託調査を行うケースはありますが、私たちのように自動化・SaaS化されたプロダクトとして展開している競合は存在しない認識です。そういう意味では、新しい市場を自分たちで定義し、生み出していると言えると思います。

行政関連の部署をお持ちのお客様にサービスをお見せすると、「こんなプロダクトがずっと欲しかった」「これがあれば業務が劇的に変わる」と言っていただけることがほとんどです。

─────逆に、これまで続いてきた行政や議会のやり方に対して、公開情報とはいえ自動で収集し可視化することにネガティブな反応はないのでしょうか?

ネガティブな反応はまったくなく、むしろ自治体や国からも大いに歓迎されています。

入札倍率が1.1倍であることは、自治体や中央省庁にとっても深刻な悩みです。「新しい施策や事業に取り組みたいが、提案・参入してくれる民間企業が集まらない」という問題を抱えているからです。

行政側も自治体側も、民間企業からのアプローチを待つだけになってしまっており、民間企業も含めて双方が「待ち」の状態であるために、何も前に進まないという悪循環に陥っていました。

さらに従来の自治体向け営業では、どこからか購入した見当違いのリストをもとに、電話でローラー作戦をかけていたという話を聞いたことがあります。本来とは異なる事業課に営業電話がかかってくるため、対応にもリソースが取られてしまいますし、現場も困惑してしまいます。私たちのデータベースでは、各自治体の事業課ごとの個別連絡先まで構造化して掲載しています。

「個別の連絡先を掲載して、自治体に怒られないのか」と質問されることがありますが、自治体の担当部署にとっては、自分たちの業務や課題に直接関係のある提案や問い合わせであれば大歓迎なのです。正しい情報に基づいて、正しい窓口に、スムーズにアプローチが行く仕組みをつくることで、自治体からすると良質な事業者を調達できる可能性が高まりますし、民間企業としては健全な競争を通じてプロダクトやサービスを磨くことができます。双方にプラスをもたらすマーケットを構築できると考えています。

─────確かに、自治体側も正当なプロセスで集まった多数の応募から最適な事業者を選定できた方が、住民に対する説明責任を果たせますね。では次に、現在の組織規模や導入実績などの数字について、差し支えない範囲で教えていただけますか?

組織規模については、業務委託メンバーも含めると現在20名超です。資本金は、資金調達を経て1億7,050万円となっています。

導入実績ですが、有料で導入いただいているエンタープライズ企業を中心に、約40社ほどになります。誰もが知るような大手保険会社や大手SIer、複数のコンサルティングファームなど、各業界を代表する大手企業をメインにサービスをご利用いただいています。

─────公開情報をクローリングしてデータベース化するというアプローチ自体は、ともすれば技術力のある他の会社でも模倣できるように思えてしまいます。LobbyAIならではの「真の競合優位性や独自性」はどこにあるとお考えですか?

大きく2つあると考えています。1つ目は「圧倒的な高度クローリング技術と高いデータ抽出精度」です。

私たちは、AI領域で著名なPKSHA Technology傘下の「PKSHA Technology Capital」と東京大学の松尾豊教授の研究室関連機関である株式会社松尾研究所傘下のファンドが共同設立・運営している「PKSHA Algorithm Fund」などから、2026年3月に出資を受けています。厳格な技術評価を行う彼らから出資を受けていること自体が、私たちの高い技術力を客観的に証明していると考えています。

実際に、大手企業の中にも「同様の仕組みを社内で構築しようと試みたが、途中で断念した」というケースが多々あると聞いています。単一のWebサイトから情報を収集する程度であればルールベースで可能です。しかし、全国に1,700以上あるフォーマットも仕様もバラバラな自治体や省庁の動的Webサイトから、エラーを起こさず安定してデータをリアルタイムで抽出し、単一のデータテーブルに格納し続けることは極めて難易度が高く、世界的に見ても実現できる企業はほとんどないと思います。

2つ目の強みは、「元国会議員や秘書、元行政職員らのドメイン知識に基づくデータ構造化とオペレーション設計」です。LobbyAIには、CEOの髙橋やCTOの石川、そして私以外にも、政治や行政に携わったバックグラウンドを持つメンバーが多数います。

仮に、将来的に高度なAIモデルなどを使ってデータ収集ができるようになったとしても、「取得したデータをどのような構造で保持し、現場のどのようなワークフローに落とし込むのが最適か」というノウハウは、行政実務を熟知した人間でなければ設計不可能だと思います。国政政党や省庁から何十人も引き抜いてAIエンジニアと組ませない限り模倣が難しい知見だからです。

このように、技術とドメイン知識という2つの参入障壁を築けていると思います。

─────なるほど。自治体や省庁のWebサイトは更新頻度も高く、通知なく構造が変わることもあり、目視や手作業での監視は非常に難易度が高そうですね。

そうですね。これまでは自治体向けに営業したい企業の担当者の方が、数百のWebサイトをブックマークし、毎朝手動でひとつずつ確認するといった壮絶な運用をしていました。私たちはそれを完全に自動化し、差分抽出とリアルタイム通知まで行っています。

また、追加になりますが、行政独特の「文脈」や「言い回し」を正しく解釈できることも強みかもしれません。

─────具体的にはどういうことでしょうか?

たとえば、議会や審議会で「前向きに検討します」という発言があったとします。それが首長や大臣の発言なのか、イチ担当者の回答なのか、あるいはどのような文書に記載されたかによって、意味合いが大きく異なります。

首長や大臣が「いつまでに」など明確な年度と一緒に発言したり、大方針で定めているKPIと絡めて発言した場合は「確実に実行される」と判断できます。また、審議会の20名の構成員の中で「誰がどのような立ち位置で発言したか」を見ることで政策の真意を見抜くことができます。私たちが持つこうした高度な解釈ノウハウをシステムやカスタマーサクセスの業務に落とし込んでいます。

─────2025年1月の会社設立から非常に順風満帆な印象を持ちますが、現在に至るまでにどのような泥臭い苦労がありましたか?

当然、いろいろな苦労がありました。たとえば、初期の頃は単なるデータベースとして販売していたため、お客様から「一度検索して満足したら使わなくなってしまう」という評価をいただき解約の壁に直面しました。

そこから、リアルタイム通知の精度向上やお客様の日常業務への組み込み支援、カスタマーサクセス体制の強化を徹底していき、継続して使っていただけるプロダクトへと進化させていきました。

また、資金調達の局面でも苦労がありました。私たちの株主になってくださっているVCは行政や公共領域への深い理解をお持ちですが、世の中のVCがすべてそうだとは限りません。中には「toC向けアプリ」などのビジネスモデルに慣れているため、「行政向けの情報データベースがなぜ巨大な事業になり得るのか」を理解していただくのが難しいこともありました。

プロダクト開発も大変でした。誰もつくったことがないプロダクトなので、CEOの髙橋やCTOの石川、COOの私、営業本部長などが集まる週次の企画会議では、激しい議論が交わされました。元政治家や政策経験者が多い組織でもあるので、みんな弁が立つと言いますか、妥協のない議論が日常的に行われていたと思います。

─────そうした苦労や激しい議論を経て、プロダクトが磨かれてきたということですね。3つ目の事業として挙げられていた「渉外公共ソリューション事業」も非常に需要が高そうな印象を持ちました。

おっしゃる通りで、非常に強いニーズをいただいています。「公共ビジネスに参入したいが、専門部署を立ち上げたばかりで何から手をつければいいかわからない」という初期段階の相談から、「すでに案件はあるが、自社リソースだけでは回らないためアプローチの一部を代行して欲しい」という実行段階のニーズまで、包括的に支援できる体制を整えています。

行政システムの標準化や統合には、まだ莫大な時間がかかる見込みです。自治体ごとのフォーマットの違いや複雑な意思決定プロセスは今後も存在し続けると思います。だからこそ、私たちのデータベースとコンサルティングを組み合わせたアプローチが、官民の架け橋として大きな価値を発揮すると考えています。

「BtoBtoG」のインフラへ。世界市場を見据えるCOOの視座

─────今後の事業における具体的な数値目標やロードマップについて教えてください。

直近の目標としては、2027年の年末頃までに月次で売上4,000万円〜5,000万円規模へ到達させたいと考えています。そして、2027年度中には『LobbyAI』というプロダクトを完成形に持っていく計画です。

─────ちなみに、現在のマネタイズの仕組みはどのようになっているのでしょうか?

基本的には一定のアカウント・ライセンス枠までは固定料金の定額制です。それを超える大規模な利用については、個別に見積もりを行っています。

一般的な営業支援ツールや顧客管理ツールのように「ひとりのユーザーが個別の作業を行うツール」とは異なり、私たちが提供しているのは「情報そのものの価値」です。そのため、一定範囲の人数であれば料金は変わりません。

ただし、何十人・何百人単位での大規模導入の場合は、AIのトークン消費量やシステムへの負荷も相応に高くなるため、個別設計としています。また、3つ目の事業としてご紹介した「渉外公共ソリューション」を組み合わせる場合も、個別のアドオン・プライシングとしてご提示しています。

─────ありがとうございます。先ほどの「プロダクト『LobbyAI』の完成形」とはどういったイメージなのでしょうか?

私たちが創業当初から実現したかったコア機能があり、それを実装することで完成形になると考えています。具体的には、収集・構造化した行政データを単に参照するだけではなく、個々のお客様の業務プロセスやワークフローの中にスムーズに落とし込めるような機能を、完備させたいと思っています。

そうすることで国内の基盤がある程度固まると考えています。そこまでいけば、次に取り組むのは海外展開です。

─────海外展開とは一気にスケール感が広がりますね。

実は「情報の非対称性」に起因する課題は日本特有のものではありません。民主主義国家であれば、世界中どこでも共通して存在しています。そのため、仕組みさえ構築できれば、アメリカ版やオーストラリア版といった具合に各国にローカライズしたサービスを展開することが可能だと考えています。

また、日本企業が海外進出する際に現地の行政・規制情報を把握するためのツールとして提供することもできますし、逆に海外企業同士が自国や他国の情報を取得するプラットフォームとしても使っていただけるはずです。

─────海外でも日本と同様に「官民の情報の非対称性」が存在しているのですか?

はい。本質的な課題構造はまったく同じです。たとえばアメリカの場合は、民間企業が政府や行政にアクセスする機会自体は日本よりも開かれています。しかし、そこには別の深刻な問題が存在します。

アメリカのロビイング市場には「ロビイスト」と呼ばれる専業層が存在し、たとえば製薬会社などの大手企業から年間で数億円規模の報酬を得て、ホワイトハウスや連邦議事堂に張り付いています。つまり、アメリカは日本と比較にならないほど巨大なお金が動く金権的な政治構造になっていると言われていて、議会の情報を得るため、あるいは行政にアプローチするためには莫大な対価を支払わなければならないのです。

その結果、潤沢な資金を持たないスタートアップなどは何億円もかけてロビイングすることができず、法改正を待たずに強引に既成事実をつくって事業を押し通すようなやり方が流行したりします。かつてのライドシェアがグレーゾーンからスタートしたのも、そういった背景があるからだと思います。

私たちは、莫大なお金を積まなければ情報にアクセスできないアメリカのような市場構造に対しても、より透明で開かれた「健全な官民連携プラットフォーム」を提供したいと考えています。万全の準備を整えた上で最終的にはアメリカ市場を目指す予定ですが、まずは距離的にも制度的にも近い台湾などのアジア圏やオーストラリア、ヨーロッパなどから順次拡大していく想定です。

─────事業のスケール化を実現するためにも、COOの立場から見て、現在直面している課題やボトルネックは何だと認識されていますか?

認識している課題は3つありまして、それぞれ打ち手を講じているところです。

1つ目は、大手エンタープライズ企業との取引に伴う業務プロセスの標準化です。スタートアップがこれほど多くの大手企業と直接お取引させていただく機会は珍しいのですが、中小企業であれば簡易的に済むセキュリティチェックシートのやり取りや法務書類の作成、顧問弁護士間での契約締結交渉などに数週間単位の時間がかかるケースがザラにあります。受注の合意から契約締結・入金までのタイムラグがどうしても長くなりがちです。

この課題に対しては、まず私たちのレスポンスタイムをゼロに近づける徹底した標準化を行い、自社側を原因とする遅延をなくす業務フローの構築を進めています。

2つ目は、優秀なエンジニア人材の採用・獲得です。AIエンジニアの存在は貴重で、獲得競争は激化しています。その中でも水準を満たす高度なスキルを持ち、その上で「行政領域のDX」に面白みを感じてくれる人材を見つけ出す必要があります。

幸いにも前職のKPMGでAI開発をしていたメンバーやVRスタートアップ出身のエンジニアなど、優秀な人材が集まってくれています。しかし、どうやって継続的に増やしていくかは常に向き合うべき課題だと思っています。

─────AIエンジニアの採用・獲得に向けて、具体的にはどのような施策を行っているのでしょうか?

一般的な採用媒体も活用していますが、最も効果的なのは社員紹介のリファラル採用、それに自社主催のイベントだと感じています。

私たちが使っているデータベースやAIクローリング技術は、技術的にも非常に奇抜で挑戦的だと言われています。そのため、CTOの石川が技術インタビューを受けたり、名だたる大企業と一緒に登壇したりしています。

また、「政治」は古くは「まつりごと」と言われていたように、イベントのようなものでもあります。私たちは元政治家や政策経験者が多い組織でもありますから、人を集めてイベントをつくり、会場を熱気で盛り上げることが得意です。

これらを組み合わせ、技術的な面白さを発信するイベントを開催すると、多くの方にお集まりいただけますし、商談だけでなく優秀層の採用にも繋がっています。「ロビー活動」ならぬ、「採用イベント」が得意なのは、自社の大きな強みだと思います。

─────課題と打ち手から話が逸れてしまいますが、社名に「ロビー(Lobby)」を使った背景についても伺いたいです。「裏での口利き」など少しネガティブな印象を持つ人も一定数いる言葉だと思うのですが、あえてこの言葉を選んだ背景には何があったのでしょうか?

おっしゃる通り「ロビー活動」や「ロビイング」という言葉に、ネガティブな印象を持つ方がいらっしゃることは承知しています。しかし、だからこそ「一部の限られた人たちだけが行っていたロビイングを、誰もが活用できる大衆的なものへアップデートする」という意図を込めて、あえて社名に「Lobby」を掲げています。

日本の民間企業、特にスタートアップの経営者の多くは、「自社の事業を通じて社会を良くしたい」という非常に強い志を持っていると思います。しかし、現状はどうでしょうか。どれほど理想的な事業を描いていても、政府や自治体を巻き込む「ステークホルダー形成」や「行政へのロビイングを含めた周辺合意」ができなければ、社会実装に至らず挫折してしまうケースが多いと思います。

「自社が目指す社会を実現するために、堂々と正当なロビイングを行いましょう」というメッセージを、CEOの髙橋を中心に周囲の起業家たちに投げかけています。それに、「社名を見ただけで何をしている会社なのか一発で伝わる」という点でも、非常に意味のあるネーミングだと思っています。

─────なるほど。明確なメッセージが込められているのですね。話を戻して3つ目の課題についてはいかがでしょうか?

認識している3つ目の課題は、カスタマーサクセス体制の高度化です。お客様が私たちのサービスを導入したことによって、「明確な価値や効果が出た」と実感していただくためのプロセス設計です。

『LobbyAI』をお渡しして終わりではなく、コンサルティング手前の領域として、導入段階でKPIや業務フローに関する同意を取り、運用のモニタリングを継続的に行う体制を作り上げています。この設計を間違えば、解約につながる確率が格段に上がるため、私と営業部長がオーナーとなり、元自治体職員のマネージャーらと一緒に体制構築を進めているところです。

─────神谷さんのような大手企業出身者、それに元政治家や元自治体職員の方々で構成されている組織だと思いますが、LobbyAIが大切にしている組織風土やカルチャーについても教えてください。

そうですね。個人的には、現在の風土は非常に良い状態にあると思っています。創業メンバー以外の社員のほとんどは大手外資系ITや国内大手企業などの出身者で構成されていて、ハードワークでありながらも殺伐とした空気はありません。ありきたりではありますが、仕事終わりにみんなで飲みにいくことも多いです。

組織として最も大切にしている価値観は、CEOの髙橋やCTOの石川がよく口にする「本質」という言葉です。「その仕事は本質的な成果やパフォーマンスに影響があるのか?」「ただの仕事のための仕事になっていないか?」という問いを常に自分たちに投げかけるようにしています。本質的な仕事を他社の2倍の濃度で行い、そこに他社の2倍の時間を投下すれば、結果として4倍の成果が出せるという思想です。

もちろん、高い成果とハードワークを求める以上、それに見合うインセンティブやストックオプションのプールもしっかり用意しています。目指しているのは「懸命に働き、成果を出した人が正当に報われる。本音でぶつかり合えるプロフェッショナル集団」です。

近々オフィスを移転する予定なのですが、キラキラした共有スペースのあるコワーキングではなく、各自が集中して仕事に没頭できるブース型のオフィスを全員一致で選んだほどです。これは、実利と本質を重視する私たちの価値観をあらわすひとつのエピソードだと思います。

─────COOとして経営の舵取りを行う上で、神谷さんご自身が心がけていることは何でしょうか?

私が大切にしていることは大きく3点あります。

1点目は「観測可能性」です。私は数値とロジックを重視する人間ですので「観測できないものは経営できない」という考えがあります。たとえばですが「オフィスの雰囲気が悪い」という定性的な課題があったとします。それが離職率や生産性にどの程度影響しているのかをモニタリングし、チャットのやり取り回数や会議の遅延頻度など、観測可能な指標に分解することを徹底しています。

2点目は「再現性」です。政策立案の現場では、一度限りの感情や情緒で意思決定する「エピソード・ベースド」を廃し、データとエビデンスに基づく「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(EBPM)」が重要視されています。

企業経営もまったく同じだと考えています。「この手順を踏めば、誰でも再現度高く同じ成果が出せる」という業務フローとPDCAサイクルを強固に作り込むことを意識しています。

最後が「健全な利潤の追求」です。ソーシャル領域や社会課題解決系のスタートアップでは「公益の追求」に寄ってしまい、慢性的な赤字に陥っているケースが散見されると思っています。

しかし、法律と倫理を遵守し、正しい事業を行っているならば、利益を出して株主に還元し、成果を出した社員の給与を上げ続け、事業を永続させる体制をつくることこそが前提だと思っています。口だけでなく、自分たちで実践できるように、自戒を込めて利潤追求に妥協しない姿勢を貫いています。

─────最後に、LobbyAIが目指す未来について教えてください。

私たちのプロダクトである『LobbyAI』が広まった先の未来として、公共領域における明確な成果を出したいと考えています。

具体的には、全国の入札倍率を引き上げ、適正なマッチングが自動的に行われる社会を実現します。将来的には、入札の検索からマッチング、さらにはAIによる一時判断までを自動化させることで、人間の恣意的な操作が入らない「最も優れたサービスや事業者が公正に選ばれる社会」をつくりたいです。

その結果として、税金の使途の効率化と透明度が増し、最終的には国民や住民が受け取る行政サービスの質が飛躍的に向上する社会を目指します。

また、日本の基幹産業やスタートアップが外貨を稼ぎ、海外へ羽ばたくための情報収集や意思決定を支援するインフラとしても、自社プロダクトを成長させていきたいです。

私たちは2025年設立の若い会社であり、ニッチな分野を攻めているスタートアップなので世の中の皆さんに知っていただく機会があまり多くはありませんでした。しかし先日、「Forbes 30 Under 30 Asia 2026(※)」に選出いただいたことで、いろんな方から連絡をいただけるようになりました。

(※)Forbes 30 Under 30 Asia :米国の経済誌「Forbes」がアジア太平洋地域を対象に各分野で世界を変える30歳未満の若きイノベーターやリーダーを選出するアワード。起業家やスポーツ選手、クリエイターなどさまざまな部門から選出される。同社は2026年5月に発表された「Forbes 30 Under 30 Asia 2026」において、組織・AI部門に選出された。

こういった機会を大切にしながら、掲げている『データアクセスに、非対称性がない世界へ』というメッセージを具現化できるように愚直に前進していきたいと思います。

─────神谷さんご自身の今後についてはいかがでしょうか?

まずは、LobbyAIを株式公開や大きなエグジットの段階までやり切ることが最優先事項です。個人的にはまだ23歳(※)なので、この先いつかは結婚してみたいとか、そういう願望はありますが(笑)。

(※)2026年7月のインタビュー当時。

とはいえ、仕事が充実しているからプライベートも楽しめると考えているので、LobbyAIをいまよりも大きく成長させることが第一だと思っています。

その後については、現時点で詳細に考えていないのですが、この先もずっと実務に携わっていたいという想いがあります。常に現場で大きなプロジェクトを設計し、駆動させ、他人や社会に対してバリューを出し続けるプレイヤーであり続けたいと考えています。

会社概要

企業名:LobbyAI株式会社

事業内容:政策渉外や自治体営業をAIでスマートに支援するプラットフォームの開発・提供など

コーポレートサイト:https://lobbyai.co.jp/

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インタビューを終えて

山内基

山内基

株式会社ディプコア ThinkD編集長

国や独立行政法人などが民間に発注する物品・工事・サービスの調達は、「官公需」と呼ばれます。中小企業庁の発表(※)によれば、その発注総額は年間で約10兆5,855億円(うち中小企業向けの契約目標が61%の6兆4,572億円)に上ります。 これほどの巨額が投じられながらも、入札倍率はわずか「1.1倍」。膨大な税金が動いていながら、実質的には無競争状態が当たり前のように続いている──神谷氏が語ったこの現実は、日本の官民連携における「情報の非対称性」がいかに根深いかを物語っていると思います。 この10兆円超の閉ざされた市場を、テクノロジーの力で民主化しようとしているのがLobbyAIです。情報の壁が取り払われ、健全な競争が生まれれば、いま以上に優れたプロダクトやサービスが行政に届くようになるはずです。それこそ、税金の価値を最大化し、社会全体を前進させる一歩になるのではないかと思います。 情報の非対称性が解消されることで、私たちが享受する社会サービスがどれだけ豊かになっていくのか。注目していきたいと思います。 (※)令和8年4月 中小企業庁の『官公需法に基づく「令和8年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」について』より

※本記事の内容はインタビュー当時のものであり、現在とは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。