「BtoBtoG」のインフラへ。世界市場を見据えるCOOの視座
─────今後の事業における具体的な数値目標やロードマップについて教えてください。
直近の目標としては、2027年の年末頃までに月次で売上4,000万円〜5,000万円規模へ到達させたいと考えています。そして、2027年度中には『LobbyAI』というプロダクトを完成形に持っていく計画です。

─────ちなみに、現在のマネタイズの仕組みはどのようになっているのでしょうか?
基本的には一定のアカウント・ライセンス枠までは固定料金の定額制です。それを超える大規模な利用については、個別に見積もりを行っています。
一般的な営業支援ツールや顧客管理ツールのように「ひとりのユーザーが個別の作業を行うツール」とは異なり、私たちが提供しているのは「情報そのものの価値」です。そのため、一定範囲の人数であれば料金は変わりません。
ただし、何十人・何百人単位での大規模導入の場合は、AIのトークン消費量やシステムへの負荷も相応に高くなるため、個別設計としています。また、3つ目の事業としてご紹介した「渉外公共ソリューション」を組み合わせる場合も、個別のアドオン・プライシングとしてご提示しています。
─────ありがとうございます。先ほどの「プロダクト『LobbyAI』の完成形」とはどういったイメージなのでしょうか?
私たちが創業当初から実現したかったコア機能があり、それを実装することで完成形になると考えています。具体的には、収集・構造化した行政データを単に参照するだけではなく、個々のお客様の業務プロセスやワークフローの中にスムーズに落とし込めるような機能を、完備させたいと思っています。
そうすることで国内の基盤がある程度固まると考えています。そこまでいけば、次に取り組むのは海外展開です。
─────海外展開とは一気にスケール感が広がりますね。
実は「情報の非対称性」に起因する課題は日本特有のものではありません。民主主義国家であれば、世界中どこでも共通して存在しています。そのため、仕組みさえ構築できれば、アメリカ版やオーストラリア版といった具合に各国にローカライズしたサービスを展開することが可能だと考えています。
また、日本企業が海外進出する際に現地の行政・規制情報を把握するためのツールとして提供することもできますし、逆に海外企業同士が自国や他国の情報を取得するプラットフォームとしても使っていただけるはずです。
─────海外でも日本と同様に「官民の情報の非対称性」が存在しているのですか?
はい。本質的な課題構造はまったく同じです。たとえばアメリカの場合は、民間企業が政府や行政にアクセスする機会自体は日本よりも開かれています。しかし、そこには別の深刻な問題が存在します。
アメリカのロビイング市場には「ロビイスト」と呼ばれる専業層が存在し、たとえば製薬会社などの大手企業から年間で数億円規模の報酬を得て、ホワイトハウスや連邦議事堂に張り付いています。つまり、アメリカは日本と比較にならないほど巨大なお金が動く金権的な政治構造になっていると言われていて、議会の情報を得るため、あるいは行政にアプローチするためには莫大な対価を支払わなければならないのです。

その結果、潤沢な資金を持たないスタートアップなどは何億円もかけてロビイングすることができず、法改正を待たずに強引に既成事実をつくって事業を押し通すようなやり方が流行したりします。かつてのライドシェアがグレーゾーンからスタートしたのも、そういった背景があるからだと思います。
私たちは、莫大なお金を積まなければ情報にアクセスできないアメリカのような市場構造に対しても、より透明で開かれた「健全な官民連携プラットフォーム」を提供したいと考えています。万全の準備を整えた上で最終的にはアメリカ市場を目指す予定ですが、まずは距離的にも制度的にも近い台湾などのアジア圏やオーストラリア、ヨーロッパなどから順次拡大していく想定です。
─────事業のスケール化を実現するためにも、COOの立場から見て、現在直面している課題やボトルネックは何だと認識されていますか?
認識している課題は3つありまして、それぞれ打ち手を講じているところです。
1つ目は、大手エンタープライズ企業との取引に伴う業務プロセスの標準化です。スタートアップがこれほど多くの大手企業と直接お取引させていただく機会は珍しいのですが、中小企業であれば簡易的に済むセキュリティチェックシートのやり取りや法務書類の作成、顧問弁護士間での契約締結交渉などに数週間単位の時間がかかるケースがザラにあります。受注の合意から契約締結・入金までのタイムラグがどうしても長くなりがちです。
この課題に対しては、まず私たちのレスポンスタイムをゼロに近づける徹底した標準化を行い、自社側を原因とする遅延をなくす業務フローの構築を進めています。
2つ目は、優秀なエンジニア人材の採用・獲得です。AIエンジニアの存在は貴重で、獲得競争は激化しています。その中でも水準を満たす高度なスキルを持ち、その上で「行政領域のDX」に面白みを感じてくれる人材を見つけ出す必要があります。
幸いにも前職のKPMGでAI開発をしていたメンバーやVRスタートアップ出身のエンジニアなど、優秀な人材が集まってくれています。しかし、どうやって継続的に増やしていくかは常に向き合うべき課題だと思っています。
─────AIエンジニアの採用・獲得に向けて、具体的にはどのような施策を行っているのでしょうか?
一般的な採用媒体も活用していますが、最も効果的なのは社員紹介のリファラル採用、それに自社主催のイベントだと感じています。
私たちが使っているデータベースやAIクローリング技術は、技術的にも非常に奇抜で挑戦的だと言われています。そのため、CTOの石川が技術インタビューを受けたり、名だたる大企業と一緒に登壇したりしています。
また、「政治」は古くは「まつりごと」と言われていたように、イベントのようなものでもあります。私たちは元政治家や政策経験者が多い組織でもありますから、人を集めてイベントをつくり、会場を熱気で盛り上げることが得意です。
これらを組み合わせ、技術的な面白さを発信するイベントを開催すると、多くの方にお集まりいただけますし、商談だけでなく優秀層の採用にも繋がっています。「ロビー活動」ならぬ、「採用イベント」が得意なのは、自社の大きな強みだと思います。
─────課題と打ち手から話が逸れてしまいますが、社名に「ロビー(Lobby)」を使った背景についても伺いたいです。「裏での口利き」など少しネガティブな印象を持つ人も一定数いる言葉だと思うのですが、あえてこの言葉を選んだ背景には何があったのでしょうか?
おっしゃる通り「ロビー活動」や「ロビイング」という言葉に、ネガティブな印象を持つ方がいらっしゃることは承知しています。しかし、だからこそ「一部の限られた人たちだけが行っていたロビイングを、誰もが活用できる大衆的なものへアップデートする」という意図を込めて、あえて社名に「Lobby」を掲げています。
日本の民間企業、特にスタートアップの経営者の多くは、「自社の事業を通じて社会を良くしたい」という非常に強い志を持っていると思います。しかし、現状はどうでしょうか。どれほど理想的な事業を描いていても、政府や自治体を巻き込む「ステークホルダー形成」や「行政へのロビイングを含めた周辺合意」ができなければ、社会実装に至らず挫折してしまうケースが多いと思います。
「自社が目指す社会を実現するために、堂々と正当なロビイングを行いましょう」というメッセージを、CEOの髙橋を中心に周囲の起業家たちに投げかけています。それに、「社名を見ただけで何をしている会社なのか一発で伝わる」という点でも、非常に意味のあるネーミングだと思っています。
─────なるほど。明確なメッセージが込められているのですね。話を戻して3つ目の課題についてはいかがでしょうか?
認識している3つ目の課題は、カスタマーサクセス体制の高度化です。お客様が私たちのサービスを導入したことによって、「明確な価値や効果が出た」と実感していただくためのプロセス設計です。
『LobbyAI』をお渡しして終わりではなく、コンサルティング手前の領域として、導入段階でKPIや業務フローに関する同意を取り、運用のモニタリングを継続的に行う体制を作り上げています。この設計を間違えば、解約につながる確率が格段に上がるため、私と営業部長がオーナーとなり、元自治体職員のマネージャーらと一緒に体制構築を進めているところです。
─────神谷さんのような大手企業出身者、それに元政治家や元自治体職員の方々で構成されている組織だと思いますが、LobbyAIが大切にしている組織風土やカルチャーについても教えてください。
そうですね。個人的には、現在の風土は非常に良い状態にあると思っています。創業メンバー以外の社員のほとんどは大手外資系ITや国内大手企業などの出身者で構成されていて、ハードワークでありながらも殺伐とした空気はありません。ありきたりではありますが、仕事終わりにみんなで飲みにいくことも多いです。
組織として最も大切にしている価値観は、CEOの髙橋やCTOの石川がよく口にする「本質」という言葉です。「その仕事は本質的な成果やパフォーマンスに影響があるのか?」「ただの仕事のための仕事になっていないか?」という問いを常に自分たちに投げかけるようにしています。本質的な仕事を他社の2倍の濃度で行い、そこに他社の2倍の時間を投下すれば、結果として4倍の成果が出せるという思想です。

もちろん、高い成果とハードワークを求める以上、それに見合うインセンティブやストックオプションのプールもしっかり用意しています。目指しているのは「懸命に働き、成果を出した人が正当に報われる。本音でぶつかり合えるプロフェッショナル集団」です。
近々オフィスを移転する予定なのですが、キラキラした共有スペースのあるコワーキングではなく、各自が集中して仕事に没頭できるブース型のオフィスを全員一致で選んだほどです。これは、実利と本質を重視する私たちの価値観をあらわすひとつのエピソードだと思います。
─────COOとして経営の舵取りを行う上で、神谷さんご自身が心がけていることは何でしょうか?
私が大切にしていることは大きく3点あります。
1点目は「観測可能性」です。私は数値とロジックを重視する人間ですので「観測できないものは経営できない」という考えがあります。たとえばですが「オフィスの雰囲気が悪い」という定性的な課題があったとします。それが離職率や生産性にどの程度影響しているのかをモニタリングし、チャットのやり取り回数や会議の遅延頻度など、観測可能な指標に分解することを徹底しています。
2点目は「再現性」です。政策立案の現場では、一度限りの感情や情緒で意思決定する「エピソード・ベースド」を廃し、データとエビデンスに基づく「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(EBPM)」が重要視されています。
企業経営もまったく同じだと考えています。「この手順を踏めば、誰でも再現度高く同じ成果が出せる」という業務フローとPDCAサイクルを強固に作り込むことを意識しています。
最後が「健全な利潤の追求」です。ソーシャル領域や社会課題解決系のスタートアップでは「公益の追求」に寄ってしまい、慢性的な赤字に陥っているケースが散見されると思っています。
しかし、法律と倫理を遵守し、正しい事業を行っているならば、利益を出して株主に還元し、成果を出した社員の給与を上げ続け、事業を永続させる体制をつくることこそが前提だと思っています。口だけでなく、自分たちで実践できるように、自戒を込めて利潤追求に妥協しない姿勢を貫いています。
─────最後に、LobbyAIが目指す未来について教えてください。
私たちのプロダクトである『LobbyAI』が広まった先の未来として、公共領域における明確な成果を出したいと考えています。
具体的には、全国の入札倍率を引き上げ、適正なマッチングが自動的に行われる社会を実現します。将来的には、入札の検索からマッチング、さらにはAIによる一時判断までを自動化させることで、人間の恣意的な操作が入らない「最も優れたサービスや事業者が公正に選ばれる社会」をつくりたいです。
その結果として、税金の使途の効率化と透明度が増し、最終的には国民や住民が受け取る行政サービスの質が飛躍的に向上する社会を目指します。
また、日本の基幹産業やスタートアップが外貨を稼ぎ、海外へ羽ばたくための情報収集や意思決定を支援するインフラとしても、自社プロダクトを成長させていきたいです。
私たちは2025年設立の若い会社であり、ニッチな分野を攻めているスタートアップなので世の中の皆さんに知っていただく機会があまり多くはありませんでした。しかし先日、「Forbes 30 Under 30 Asia 2026(※)」に選出いただいたことで、いろんな方から連絡をいただけるようになりました。
(※)Forbes 30 Under 30 Asia :米国の経済誌「Forbes」がアジア太平洋地域を対象に各分野で世界を変える30歳未満の若きイノベーターやリーダーを選出するアワード。起業家やスポーツ選手、クリエイターなどさまざまな部門から選出される。同社は2026年5月に発表された「Forbes 30 Under 30 Asia 2026」において、組織・AI部門に選出された。

こういった機会を大切にしながら、掲げている『データアクセスに、非対称性がない世界へ』というメッセージを具現化できるように愚直に前進していきたいと思います。
─────神谷さんご自身の今後についてはいかがでしょうか?
まずは、LobbyAIを株式公開や大きなエグジットの段階までやり切ることが最優先事項です。個人的にはまだ23歳(※)なので、この先いつかは結婚してみたいとか、そういう願望はありますが(笑)。
(※)2026年7月のインタビュー当時。
とはいえ、仕事が充実しているからプライベートも楽しめると考えているので、LobbyAIをいまよりも大きく成長させることが第一だと思っています。
その後については、現時点で詳細に考えていないのですが、この先もずっと実務に携わっていたいという想いがあります。常に現場で大きなプロジェクトを設計し、駆動させ、他人や社会に対してバリューを出し続けるプレイヤーであり続けたいと考えています。





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